実験室の中で遺伝子操作していた時代から、今後は農場自身を遺伝子操作する時代に入った。種子を支配することで食を支配しようとした遺伝子組み換え企業は、それを超えて、農場全体をデジタル情報化し、AIを使って生産をコントロールするAI企業として農業生産を直接支配する企業へと転換しつつある。
これまでの遺伝子組み換え作物や「ゲノム編集」生物は研究所の中で遺伝子操作され作られた。でも、それを研究所から農場全体に広げる技術が作られ、すでに米国では使用が広がっている。つまり、遺伝子操作を閉じられた研究施設の中で行うのではなく、自然に対して直接それを行う技術である。
その一つがRNA農薬。これは生物のDNAを変えることなく、DNAがタンパクを作る際に作られるRNAを利用することによって、その発現を変えてしまう。RNA農薬として噴霧されたdsRNAは虫の体内に入り、虫にとって毒素となるタンパクを作り出す。その結果、虫は死ぬ。遺伝子操作(遺伝子発現の操作)を自然の中で行う農薬はネオニコ系農薬など化学農薬以上に生命のあり方を狂わせる可能性がありうる。
さらに窒素固定をする遺伝子操作微生物を肥料として土壌に噴霧する。微生物は遺伝子の伝搬・取り込みが他の生物よりも著しく早く、しかも地球の最大数を誇る微生物が遺伝子操作されることになれば、その影響は計り知れない。しかし、すでに米国ではこの農薬は市販されており、日本の「みどりの食料システム戦略」はその導入を柱に掲げており、日本への導入も近いかもしれない。
作られる作物はAIによって設計されたタンパク質を効率的に生産するものに変えられることだろう。果たして自然界には存在しないタンパクはどんな健康影響を生み出すだろうか?
通信衛星が農場の状態を監視し、iPadなどのタブレット端末に農場の状況を表示する。AIが何のタネをどこに撒くか、農薬や化学肥料はいつどこに撒くか、そんな指示もその端末経由で行われる。AIの指示には有機農業は当然入っていない。なぜならそれを作ったのはモンサント(現バイエル)だから。当然ながらバイエルのタネを播かせ、バイエルの農薬を使わせることになる。タネで食を支配しようとした遺伝子組み換え企業は今やAI企業となって、生産を直接コントロールできる。
そんなのSFだと思うかもしれないが、すでにそうした農場面積は世界で2億2000万エーカー(約8903万ヘクタール)に広がっている。日本の全農地面積を400万ヘクタールとしたら、22倍を超す面積である。
さらに、AIに従って作物を作れば、二酸化炭素を土壌に蓄え、気候変動を緩和するとして、カーボンクレジットが得られる仕組みも米国やEUなどで導入された。しかし、こうした農場が気候変動を緩和するというのはとんでもないデタラメである。というのも、そもそもこのシステムを運用するためには莫大なエネルギーが費やされるからだ。通信衛星を打ち上げるロケットに、そして、AIを動かすために莫大なエネルギーが消費される。遺伝子操作農場による生態系の破壊はさらに気候変動を加速する可能性があるだろう。しかし、これが気候変動緩和策であるとして政府予算から貴重な財源がつぎ込まれていく。
今年、シンジェンタは新たな遺伝子組み換え作物を登場させた。それは水不足や栄養不足、害虫の襲撃などで植物がストレスを感じたら光を出すように遺伝子組み換えされている。その光を衛星やドローンが検知して、AIが必要な水や農薬、化学肥料を自動的に散布できるようにしたもので、ロボット・レディー作物(ロボット化対応作物と訳すべきか)と呼ばれる。
もはや、農家も不要とした完全ロボット化された遺伝子操作農場が登場する日も遠くないのかもしれない。
日本のマスコミを賑わすスマート農業、デジタル農業の目指す世界とは遺伝子組み換え企業によって生産が支配されたこんな世界であることを見抜く必要があるだろう。数社によって支配された世界、そしてさらに悪化する環境、人の存在を排除するテクノロジー、決して容認できる世界ではないはずだ。
もちろん、スマホやタブレットが悪いとは言わないし、GPS機能が付いたトラクターや水位を監視できるスマートメーターも便利だと思う。利用することは悪くない。でもそれらの情報がすべて1つの企業に握られたら、そこにあるのは究極のディストピアとなってしまうから、それは警戒すべきだろう。これは未来の予想図じゃなくて、すでに広大な世界の農地で進みつつある現実なのだから。「みどりの食料システム戦略」でも、国連の食料システムサミットでもこんな方向が進められようとしていることを把握した上で、こんな農業に公金を使わせないために、何をすべきか、考え、動く必要がある。自然や社会を守る農場こそが必要であり、遺伝子操作農場は不要である。
この一連の動きはFriends of the EarthのWebinarの講演で確認することができる。最初の講演者のプレゼン10数分で十分なので、関心ある人は見てほしい。
Genetically Engineering the Farm Webinar