国連を多国籍企業がジャックする? 今年はかつてないほど食のシステムをめぐる激突の年にならざるをえないだろう。忘れないでほしいのはこの流れを作り出している底流は世界の有機農業・アグロエコロジーの実現をめざす動きであること。それは世界大に広がり、市場も各国政府の政策も変えつつある。これに脅威を感じて反撃を始めているのが化学企業/遺伝子組み換え企業。市民の力は大きいのだ。
モンサント(現バイエル)や住友化学が作るCropLifeがFAOにすり寄ることに成功したことを先日報告した(1)が、こうした動きはこれに留まらない。今年9月に国連は食料システムサミットの開催を予定している(2)が、その責任者に担当されたのはなんとビル・ゲイツ財団が設立したアフリカ緑の革命同盟(Alliance for a Green Revolution in Africa、 Agra)の代表。アフリカの農民から種子を奪って、遺伝子組み換え種子や農薬・化学肥料を押しつけるための組織と言っていいだろう。そして、その発表されたサミットのコンセプトペーパーには精密農業、メガデータ、遺伝子組み換え技術、多国籍企業が売り込みをかけている言葉が並ぶ(3)。
近年、世界的なグローバリゼーションによって世界では飢餓人口が急増している。この5年で世界で6000万人も飢餓人口が増えたと国連は推測している。新型コロナウイルスはそれに拍車をかけている。飢餓で苦しむ人の数は急増している。このサミットが掲げるメインはSDGsであり、貧困や飢餓の撲滅や環境が主題にならざるをえない。それなのに環境を破壊し、飢餓を拡大した技術をテーマにするとは何事だということになる。世界各国の農民組織、市民団体はこのサミットをボイコットし、対抗会議の開催を表明している(4)。
流れを確認しておこう。かつて、農業を工業化し、小農を追い出し、生産効率を上げれば世界から飢餓がなくなるとした農業政策が国際的に進められた。しかし、その政策によって世界ではむしろ飢餓人口が増え、食料不安はさらに高まった。工業型・企業型農業であげられるのは投資効率であって、単位面積あたりの生産性でも食料保障の確立でもなかった。そのままその政策を継続・拡大させていけば、環境も破壊し、農地は減少し、生産すら維持できない現実が明らかになった。ここで大きな転換が図られることになる。
食の政策は市民社会の参加のもとで決められなければならないことが確認され、国連の世界食料安全保障委員会(CFS)では大幅な民主化改革が行われた。市民の声が国連の政策に反映されやすく変わっていった。そして生まれたのが家族農業とアグロエコロジーを基軸とする政策。
環境や健康を守る農業こそが世界の食の問題を解決するとして、世界は工業型・企業型農業から有機農業・アグロエコロジーの推進に舵を切った。
化学肥料・農薬の大幅削減政策を各国が発表している。追い詰められる化学企業/遺伝子組み換え企業。そこで彼らは多国籍企業が集まる世界経済フォーラムを使って、2019年6月に国連の戦略パートナーとして提携関係を結んでいる。つまり、国連組織を使って、この動きを反転させるための攻勢を仕掛けているというところだろう。FAOとCropLifeとの提携、国連と世界経済フォーラムの提携、食料システムサミットの動きはいずれも国連の多国籍企業による買収を象徴し、国連での世界大多数の人びとの声を断ち切ってしまうものであり、断じて許されるものではない。
インドで昨年9月から大規模に展開されている新農業3法への抗議行動も、インドの農業を多国籍企業が自由にしようとすることへの抵抗運動である。そして日本でも種子法廃止、種苗法改正に続き、農産物検査法に手がかけられようとしている。そのめざすところは食のシステムを多国籍企業が握ることである。
でも、焦ってはいけない。追い詰められているのはむしろ彼らの側なのだから。でも強力な彼らの動きにどう対抗すればいいだろう? 1つの手は意志決定の分散化と民主化だ。権力を集中させ、その権力を買収することで多国籍企業は活路を拡げてきた。もし、意志決定が分散・民主化された場合、彼らはそれに対応できなくなる。世界の自治体が独自に決定できるようになれば彼らの力は大幅に損なわれる。そして、その世界の各地域が互いに連帯することだ。そうすれば多国籍企業は横暴をふるうことはできなくなる。
その意味でも、日本国内の動きだけでなく、この国連食料システムサミットの動きや世界の多くの農民・市民団体による動きにも注目してゆきたい。
(1) バイエルや住友化学が構成するCropLifeのFAOへの攻勢について
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/5067462296613893
(2) Food Systems Summit 2021
https://www.un.org/en/food-systems-summit/about
自民党の西銘恒三郎衆議院議員の以下の写真(右側)が「公式」のサミットをよく表していると思います。名と実は違いますが。
https://twitter.com/NishimeKosaburo/status/1367639997898133504/photo/2
(3) Farmers and rights groups boycott food summit over big business links
Focus on agro-business rather than ecology has split groups invited to planned UN conference on hunger
https://www.theguardian.com/global-development/2021/mar/04/farmers-and-rights-groups-boycott-food-summit-over-big-business-links
(4) 昨年の国連総長への公開書簡。550を超える市民組織が署名(この署名では550団体がわかる)。日本からはアフリカ日本協議会だけ。国際的な連帯活動での日本の弱さは大きな問題。
http://www.csm4cfs.org/wp-content/uploads/2020/03/EN_CSO-Letter-to-UNSG-on-UN-food-systems-summit.pdf
これまで食料システムサミットに関連して、市民団体から取られた行動の一覧をまとめたページ
Key CSM and CFS communications on the United Nations Food Systems Summit
http://www.csm4cfs.org/14024/