米国FDA細胞培養肉へのゴーサインは何をもたらすか?

 こりゃないわ。米国食品医薬品局(FDA)はアップサイド・フーズ(UPSIDE Foods)が鶏の細胞を培養して作った細胞培養肉にゴーサイン(1)。この後、米国農務省(USDA)が同様に認めれば米国内の細胞培養肉の流通が始まってしまう。
 「気候変動問題に朗報」とか、「代替肉に需要が高まる」とか報道されていくことだろう。だけど、どうやって作られているのかFDAの提供する情報に目を通したら、唖然(2)。
 
 鶏から細胞をちょっと取り出すだけで、動物殺さずに肉が作れる、と思うかもしれないけど、情報に目を通すと、ウシ胎児血清が培養のために使われている。この肉の大量生産のためにはウシの胎児がたくさん殺されるだろう。アップサイド・フーズは血清は合成のものに切り替えていくというが、それはいつのことか?
 
 また、細胞をどうやって大きくするか、そこにもびっくりする遺伝子操作が使われている。動物組織から分離させた細胞は大規模な培養が難しく、すぐに死んでしまうので、不死化のための遺伝子操作をするというのだ。具体的にはTERT遺伝子を挿入するのだが、この遺伝子は鶏にも存在し、受精以降、細胞分裂を活性化させるが、分化・成長と共にその機能は不要になり、失われていく。
 生命の中では個々の細胞は寿命を終えれば細胞死を迎え、新しい細胞へと生まれ変わっていく。不死になる必要はない。だけど、それでは効率よく培養できないので、通常の鶏では不活性化されているTERT遺伝子を挿入してその細胞を不死化させる。
 
 これって一歩間違えば、がん細胞と言わざるを得ないだろう。通常の肉であればそのTERT遺伝子は不活性だから食べても問題はないけれども、TERT遺伝子が活性化したままの培養肉を食べたら、人の体に何を引き起こすか? この点をFDAはどう安全だと判断したのか? この遺伝子はバイオリアクター(細胞培養するタンク)から引き離したら機能しないはずだし、調理の間にダメになっているはずだから、大丈夫に違いない、と推測しただけ、と読める。実際に実験したという記録は見当たらない。TERT遺伝子は同種の遺伝子だから外来の遺伝子を入れていないと強弁するかもしれないが、TERT遺伝子は鶏の細胞の中で不活性になっているわけで、新たにそれを入れるというのは遺伝子組み換えそのものだ。遺伝子組み換え食品の常だが、抗生物質耐性遺伝子なども同時に組み入れられている。
 
 FDAはゴーサインを出したと書いたが、ここを承認した、と書くと誤りとなる。しかし実際の意味は承認なのだが。というのもこの細胞培養肉に対して、申請・審査・承認のプロセスは一切やらないことが宣言されているからだ。だからこれは承認ではない。これ以上質問がない、というのがFDAの表現(つまりFDAでの相談は終わったということ)。従来の遺伝子組み換え食品であれば生産の前に、申請が必要で、審査が行われ、合格したものにはパブリックコメントが行われて、それを経て承認される。だから時間がかかった。遺伝子組み換え企業はこの仕組みを嫌った。そのプロセスを一切なくせ、と要求した。その結果、このプロセスは「ゲノム編集」食品の時に完全に省略されることになった。今回もあくまで事前相談であって、それは審査・承認ではない、と言っている。逆に言えば、米国政府は遺伝子組み換え企業を規制する権限を自ら捨てて、事前相談だけにしたのだ。その相談も、開発企業の出すデータを精査するだけ。実験などによる実証は行われない。開発企業が都合の悪いデータを出すわけがなく、危険のチェックは困難になる。
 
 この細胞培養肉の問題は多岐に及びうるだろう。当然ながらウイルスや菌によるバイオハザードの可能性も否定できないように思う。人獣共通感染症が一気に広がる可能性は否定できないのではないか? しかし、それ以上に、こうした細胞培養肉が社会に溢れれば、食の意味が変わってくるに違いない。
 
 これまで私たちは命をいただいてきた。命とは独立していて、自分のすべての細胞が自律的に再生する完結性のある存在だ。でもこの細胞にはそれがない。農業も畜産も人間の社会も、私たちの存在を支えてきた食が命を持った存在から細胞へと変わることで、起きる変化は現在私たちが想像できないほど大きなものになるように思う。文化とは何か、人の感情とは何か、突き詰めていけば、そこには人の命を支える根拠としての食がある。それが変わるということは人間社会をひっくり返すくらいの大きな衝撃を与えざるをえないと思う。同じカロリー、栄養があれば同等なものと考えるのはあまりに表層的な捉え方だろう。
 
 今後、米国ではUSDAがどう判断するのかにかかるけれども、たぶん、FDAと同様の判断を下し、表示義務も課されずに米国内を流通していく可能性が高いだろう。すでにシンガポールが2020年12月に細胞培養肉にゴーサインを出し、今、日本や韓国がそれを追っている。日本でも各社が細胞培養肉の市場化にしのぎを削っている。
 
 米国ではどうやらFDA内部の検討だけで連邦議会でも何も議論がされていない。日本の国会でも議論すらしないのかもしれない。そして多くの国会議員は何が問題なのか、知りもしないだろう。このような中で、私たちの文明の根幹が覆されようとしている。
 
 さて、どう反撃するか?

(1) ロイター:米FDA、培養肉に初の食用認可 畜産肉の代替需要高まる
https://jp.reuters.com/article/usa-meat-fda-cultivated-idJPKBN2S7039

(2) FDA Completes First Pre-Market Consultation for Human Food Made Using Animal Cell Culture Technology
https://www.fda.gov/food/cfsan-constituent-updates/fda-completes-first-pre-market-consultation-human-food-made-using-animal-cell-culture-technology

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