ゲノム編集食品は当然有機じゃない(パブコメ)

「有機農産物の日本農林規格等の一部改正案について」というパブコメのタイトルを見て、思わず身構える。ついにゲノム編集された食品を有機に入れるということに手を染めるのか、と思って読み進むと、(遺伝子組み換えを使えないことに加え)「ゲノム編集技術を用いて生産されたものについても、原材料等において使用できないことを明確にする改正を行う」(1)と。

 え、正しいじゃん。ちょっと待て。農水省はその逆の動きをしていなかった?

 ゲノム編集された食品は遺伝子組み換えではないから有機にしてしまえ、ということを米国農務省次官が7月に発言して大騒ぎになっている。9月30日に秘密の検討会を農水省は開いたが、これは米国政府のゲノム編集を有機へ、という動きに歩調を合わせたものではないかと思われた。
 そこから一転して、ゲノム編集を有機農産物としては使えないことを明確にするための規格改正を行うという。これそのものは大いに歓迎できるものだ(ただ、これで解決にはならない。後述)。

 どうして農水省は方針転換できたのか? 1つのヒントは米国の動きにあるのかもしれない。米国では10月23日から25日まで全米オーガニック認証基準理事会(NOSB)が開かれて、有機認証にゲノム編集された食品を入れるかどうかについて討議が行われた(2)。そこでは有機農業関係者は全員反対を明確にした。これに対して米国農務省の担当者もゲノム編集を有機基準に入れるのは農務省にとっての課題にはなっていない、しかし、有機農業における新しい技術と革新に向けた健全な対話は促進していきたい、と発言し、紛糾。

 生産者や消費者の絶対反対の前には米国農務省もたじたじだった。それでも農務省はさらに検討を続けると言いたげであった、でも、そんなの許さない、というのがNOSBの結論。核酸を人工的に操作して突然変異誘発を行ったもの(つまり遺伝子組み換えやゲノム編集、RNA干渉などの技術も含まれる遺伝子操作技術全般)は有機生産方法として認めないことを全会一致で決めている(3)。

 経緯がどうであれ、結論が良ければそれでいいじゃないか、と言うかもしれないけれども、しかし、まだまだ問題は山積みである。

 つまり、有機認証をする際にはそれがゲノム編集されていないことを確認することが新たに加わることになるわけだが、一体どうやってやるというのか、という問題だ。ゲノム編集した場合にその表示が義務づけされていれば、それは簡単。でも表示は義務付けされていない。
 厚労省や農水省にいちいち確認してそれが届け出されたゲノム編集食品か確認することは一定可能だろう。でも罰則のない届け出制度だから、すり抜ける可能性も否定できない。認証団体だって、途方に暮れるだろう。有機認証したけど実際にはゲノム編集されていたら、どうするのか? 確実にゲノム編集でない原料しか使っていない、ということを証明できないと、有機認証が取れなくなるとなれば、加工食品の場合は特にとっても大変になってしまう。
 種子も知らないうちにゲノム編集されているかもしれないわけで、使う種子がすべてゲノム編集でないことが証明できないと有機認証が取れなくなってしまいうる。種子も有機認証すればいい(EUでは必須)。少なくとも種子にも表示が必要だ。もちろん、確かめるのは大変だからゲノム編集も有機として認めてしまえ、というのはありえない。そんなことをしたら有機認証そのものが無意味になってしまう。

 この規格改正そのものは正しく、そのままやっていただきたいものだが、この規格改正と両立しうる食品表示が少なくとも必要となる。整合性のあることをやれ、ということになる。

 農水省はゲノム編集された種苗にはしっかりとゲノム編集していることを表示することを義務付けし、そして出荷する際にも表示を義務付けるべきだろう。そうすれば有機に間違って入ってしまうことは避けられる。

 政府は多国籍企業ロビーの言うままにゲノム編集の規制を避けようとしたけど、規制しないといろいろ矛盾が出てきてしまい、やっぱり避けて通れないでしょ、ということ。しっかり表示しましょうね。

 政府はゲノム編集と自然な変異は区別できないから表示できない、とかもっともらしいことを言うけれども、これは真っ赤なウソ。ゲノム編集は検出も区別も可能だし、そもそもこのフレーズは日本で油などでの遺伝子組み換え表示は不要という時にも使われた古いインチキな理屈の再利用に過ぎない。日本企業は遺伝子組み換え表示義務がない国内では表示せず、同じ製品を表示義務があるEUでは表示して売っている。つまり表示させる制度があるかないかで、企業は行動を変えている。調べればわかるし、虚偽の表示で信頼失うリスクを企業は冒せない。制度を作れば企業は表示する。デタラメな言い訳を許してはいけない。

 ということで、規格改正賛成、だけど、農水省はしっかりとゲノム編集規制する姿勢見せてね、というコメント書いて送ろうと思います。みなさまはいかがでしょう?
 締め切りは12月7日。

(1) 農水省パブリックコメント:有機農産物の日本農林規格等の一部改正案についての意見・情報の募集について

(2) The Cornucopia Institute: Follow the National Organic Standards Board Meeting in Pittsburgh, PA #NOSB

(3) Gene editing, celery powder and organic enforcement: A roundup from the NOSB’s fall meeting

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA