EUの「ゲノム編集」生物規制緩和、延期に

 EUが「ゲノム編集」食品の無規制流通を6月初旬に受け入れてしまうことが警戒されていたが、問題噴出によって延期となる見込みとなった。「ゲノム編集」をどう規制するか、議論を本格化させる時だ。
 
 「ゲノム編集」食品で日本が突出する状況が続いている。実質的流通は日本だけ。でも、これは欧州裁判所が2018年に「ゲノム編集」生物を遺伝子組み換え生物と同様に規制する判決を出して、EUで規制する方針になったことが大きい。作っても拒否されることが考えられるからグローバル企業は本格的生産に入れない。だからバイオテクノロジー企業はEUに対して猛烈なロビーをかけた。欧州裁判所の判定を覆す委員会報告を昨年の4月に出し、規制無し流通に向けたパブリックコメントも実施、その結果、6月7日に始まる欧州委員会で「ゲノム編集」食品の流通がEUでも認められてしまうのではないか、という状況になってしまった。
 3月20日に米国のかつてのモンサントのライバル企業であったダウ・ケミカル、デュポンが合併したコルテバが作った「ゲノム編集」トウモロコシ、ワキシー・コーンが日本の農水省などに届け出されたものが認められたが、いよいよ、EUでの規制緩和を受けて、遺伝子組み換えメジャー企業が「ゲノム編集」作物を市場に出そうという動きになったのかもしれない(しかしワキシー・コーンの流通はまだ未定)。
 
 しかし、欧州委員会でオーストリアの環境大臣が「ゲノム編集」に対する規制緩和に反対し、表示義務を求めることを表明したが、それにドイツ、ハンガリー、ルクセンブルグ、スロベニア、スロバキア、キプロスの環境大臣も賛同した。委員会での提案は7月後半までは出ないだろうということで、時間の猶予ができたことになる。EU加盟国ではないが、スイスは遺伝子組み換え生物のみならず「ゲノム編集」生物の成育をモラトリアムで禁止している。今年半ばにはスイスは具体的な規制方法を提案するとしている。具体的な規制方法が議論できる段階に入ったとも言えるかもしれない。
 
 EUが日米なみに規制緩和し、バイオテクノロジー企業が「ゲノム編集」推進のギアを上げてしまえば、トレーサビリティを失った農家も消費者も知る権利が奪われ、極少数の企業に支配される社会の到来を阻止できなくなってしまう。
 そのような動きに対して、「ゲノム編集」でない食に独自表示を行っていく動きは世界でその重要性を増すことになるだろう。

EU postpones draft regulation for new genetic engineering
https://testbiotech.org/en/news/eu-postpones-draft-regulation-new-genetic-engineering

GMO Deregulation Delayed – Where Are We At, Where Might We Be Going?
https://www.arc2020.eu/gmo-deregulation-delayed-where-are-we-at-where-might-we-be-going/

バイオテクノロジー企業によるロビーについては以下が参考になる

A loud lobby for a silent spring
The pesticide industry’s toxic lobbying tactics against Farm to Fork 17.03.2022
https://corporateeurope.org/en/2022/03/loud-lobby-silent-spring#_ftn1

LOBBYWATCH
CORPORATE CAPTURE: GLOBAL
https://gmwatch.org/en/main-menu/news-menu-title/news-reviews/20168-review-537-lobbywatch

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