カドミウム汚染の政府の責任を問うー「あきたこまちR」について

 秋田県が作るお米をすべて放射線育種(重イオンビーム育種米)に変えようとしています。その手始めが「あきたこまち」を「あきたこまちR」に変えることなのですが、それに関してパブコメが8月21日まであります。
 ここではこれまでにあまり書いていないことに触れたいと思います。
 なぜ、こんなことが必要になったかといえば、カドミウム汚染です。主要なカドミウム汚染は鉱山から来ています。しかし、日本では多くの鉱山はかなり前に閉鎖されてしまっています(1)。それなのに、なぜ、今、カドミウム汚染対策なのでしょうか? それは汚染が放置されていたからに他なりません。
 
 なぜ、日本全国、カドミウム汚染が広がったのか、それは鉱山開発が国策で行われたにも関わらず、十分な汚染対策が行われなかったからです。
 明治以降、政府は鉱山を財閥系企業に払い下げます。そして富国強兵を掲げて、増産を要請しますが、その鉱山活動による被害については注意を払いませんでした。こうして足尾鉱毒事件やイタイイタイ病は生まれたわけです(2)。当然ながら、この責任はこの汚染を引き起こした企業にあります。そして、それらの企業に鉱山開発を託した政府にもあります(明治以降、鉱山資源は土地の所有者ではなく、国有のものとなり、それがその後、財閥系企業に払い下げになっています。ですので、政府の責任は明白です)。
 
 被害地域の住民への補償を前提に、徹底的な汚染調査を行い、その対策が行われていれば、その小手先の対策に追われるということにはなりませんでした。これまでに行われた国の政策とは、高汚染米が発見された地域の対策が中心でした。高汚染米が出た地域をモグラ叩きするという対処療法に留まり(しかも対象が水田に限られる)、包括的な汚染対策が行われていませんでした。
 こんなに後になって、国際的にカドミウム規制を求める声が高くなるに及んで、お米だけカドミウムが少なければいいということに問題が矮小化されてしまっています。もちろん、安全なお米は前提となりますが、地域が汚染されたままであれば、地下水も汚染され、地域の他の産物も汚染し、人以外の生命も直接脅かし、脅威は残ったままになってしまいます。
 
 カドミウムだけの問題ではありません。今、農水省や国交省は下水汚泥肥料の使用を全国的に奨励していますが、この下水汚泥肥料は米国の800万ヘクタールの農地をPFASで汚染したことで大問題になっており、米国メイン州は2022年に下水汚泥の肥料への利用を禁止しました。まさに時代に逆行することを政府は奨励していることになります。今後、カドミウム汚染だけでなく、PFASやヒ素など、化学物質、重金属による複合汚染が高まる可能性があります。さらには原発再稼働により放射性物質汚染の危機も高まらざるをえません。
 
 いったん汚染してしまった土地を元に戻すことは容易ではなく、長い時間がかかります。まずは汚染させないことを最大限に追求することが原則にならなければならないのに、日本政府にはそうした姿勢が見られません。これでは日本の未来は真っ暗になってしまいます。
 そうなる一つの理由にこのカドミウム問題対策が環境省、農水省、厚労省にまたがっていて、統一した戦略が描けていないことも関わっているかもしれません。現場のカドミウム低吸収性品種開発者たちは、むしろ包括的な解決を志向していたと思われます(3)。しかし、農水省の打ち出した方針はそこからカドミウム低吸収性品種だけを切り出したものとなっています(4)。
 今回の秋田県の「あきたこまちR」の全量切り替えには農水省の関与がはっきりしています。ですので、秋田県以上に、方針を出した農水省にその責任を求めざるをえないと思います。
 
 海外では技術的な小手先の解決策をtechnofixと呼びます。これは批判、軽蔑の対象となり、そうではない、より総合的で持続的な解決策が求められますが、日本では逆にtechnofixが褒め称えられ、それこそが画期的であるかのように扱われるという残念な傾向があるように思います。というのもtechnofixがありさえすれば、これまでのビジネスを変えずに続行できるから、日本ではもてはやされるのではないでしょうか?
 しかし、technofixは日本にとってより大きな惨事を引き起こすものにならざるをえないと思います。というのも、これまでのあり方の大きな転換が求められているにも関わらず、technofixを導入すれば転換せずに済むということで、大きな転換をすることを先送りしてしまい、さらに問題が大きくなってより大きな惨事が生まれてしまうからです。またある問題を解決するというtechnofixが次の問題を生むというケースも多々あります。
 
 だからこそ、ここでtechnofixに頼らずに、包括的で総合的な解決策を探る必要があると思います。そのためには今までのあり方をいったん止めて、再点検し、根本的な姿勢を正すことが必要になります。
 まず汚染させない、そして、汚染した地域は分離して、徹底的に汚染をなくす計画を実施するという原則を打ち立てることだと思います。そうすれば、日本の未来にも希望が持てるようになると思います。
 
 今回の「あきたこまちR」「コシヒカリ環1号」というtechnofixは本来、特定の責任者の責任を曖昧にすることで日本列島の住民すべてを巻き込もうとするものです。その推進には反対せざるをえません。
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 秋田県議会のパブリックコメントに関する情報は以下(手紙、ファックス、メール、Webフォームのどれでも送ることができます)。8月21日締め切り
https://pref.akita.gsl-service.net/doc/2018050800035/
 
 
放射線育種米「あきたこまちR」への全量転換に関する秋田県議会への意見

放射線育種米「あきたこまちR」への全量転換に関する秋田県議会への意見


 
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参考
(1) 日本の鉱山の多くは閉鎖されてしまっていますが、工業に必要な資源はどうなっているのでしょう? 今、世界、特に南の国、たとえばブラジルで鉱山開発でひどいことが起きています。日本の鉱山開発は日本のためでしたけど、ブラジルでの鉱山開発はブラジルのためになっているとは言えません。ほとんどが輸出されてしまうからです。鉱山から出た利用しない部分はゴミとして鉱滓ダムに蓄えられます。そして、その中にはカドミウムやヒ素、放射性物質など有害な物質が多く含まれます。
 その鉱滓ダムから環境被害が生み出され続けます。最悪の場合はその鉱滓ダムが決壊して、広範囲の地域が重金属汚染に苦しめられます。
 ブラジルでは2015年11月にマリアナで、2019年1月にブルマジンニョで鉱滓ダムが決壊し、大きな被害を生み出しました。そしてこうした危険のある鉱滓ダムは他にも16あるといいます。
 日本はこうした危険をブラジルなどに輸出したと言えるかもしれません。これは大きなテーマなので今後も追っていきたいと思います。

2015年11月28日の投稿
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/pfbid0X4RCAcdXg8uVrr9Dtz3xrqXpfZ137KHormanwZ8ndUKrf8zye4L2FjhCtwE3iDbDl

(2)『神通川流域民衆史: いのち戻らず大地に爪痕深く』向井嘉之, 金澤敏子, 高塚孝憲著(能登印刷出版部)
https://books.google.co.jp/books/about/%E7%A5%9E%E9%80%9A%E5%B7%9D%E6%B5%81%E5%9F%9F%E6%B0%91%E8%A1%86%E5%8F%B2.html?id=nrajzwEACAAJ&redir_esc=y

(3) カドミウムを吸収しないイネの開発と実用化に向けた挑戦
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fertilizerscience/44/44/44_77/_article/-char/ja/

(4) 農水省消費・安全局「コメ中のカドミウム低減のための実施指針」(2018年)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/2_taisaku/attach/pdf/01_tec-11.pdf

添付地図はカドミウム汚染地域の地図(環境省) https://www.env.go.jp/content/000035920.pdf
から

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