米国の有機基準でも「あきたこまちR」はアウト

 今月開かれた米国の全米有機基準委員会(NOSB)での人為的突然変異品種(以下IM品種、IM=Induced Mutagenesis)をめぐる議論を読んだ。その議論は有機の原則を踏まえた内容になっていた。そこから読み取れたのはIM品種は排除するという意志だった。日本の農水省とは真逆である。
 何をもって有機農産物とするのかを決める有機基準は国際的なルール(コーデックス規格)があるが、具体的にはコーデックス規格を参照しながら各国がそれぞれ決めている。有機基準は遺伝子操作された食品やフードテックの食品が続々出てくる中、その歯止めとしてより大きな意味を持つようになっている。最近の懸案は人為的な方法によって突然変異を引き起こした品種を有機と認めるかだ。
 そもそも有機基準とは自然の摂理を逸脱しないという有機農業の基本原則に基づくものだ。この有機基準を作る上で最大の貢献をしてきたのがIFOAM(国際有機農業運動連盟)であり、IFOAMでは放射線を当てたり、化学物質を使って遺伝子を変異させた突然変異品種を使った農産物は有機とは呼ばないと明確にしている¹。
 それでは米国ではどうだろう? 米国では毎年春と秋に全米有機基準委員会(NOSB)が開催され、そこで米国での有機基準が討議される。今年の秋のNOSBは11月4日〜5日に開催されたが、その資料ではこう書かれている。人為的突然変異育種について、「多くのコメント提供者は、 植物素材を有毒化学物質や放射線に曝露することは有機農業の原則に反することに同意した」²と。
 しかも、有機基準で排除されるのは「自然条件下では不可能な結果ではなく、自然条件下では不可能な手段を指す」 であると。つまり自然条件でできるものと結果的に同じになるからいい、と結果オーライで容認するのではなく、自然条件では不可能な手段を使って、変異させること自身を排除する、つまりプロセスに問題があれば排除すべき、というのがNOSBの主流の考えであるということになる。
 
 ということは重イオンビームによって遺伝子を改変することはNOSBのこの見方からすれば自然条件下では不可能な手段となるので、当然ながら排除されて当たり前ということになる。重イオンビームは加速器でもなければ作れず、自然界の中には実質存在しないから、それを使ったものがこの有機基準に当てはまるとは考えられないからだ。
 
 それにも関わらず、農水省は重イオンビームによって遺伝子を改変したカドミウム低吸収性品種は有機認証して構わないと断言している。その根拠を尋ねると「コーデックス規格で排除すべきと書かれていないから」³。
 まったく呆れるしかない。有機の原則も踏まえない哲学のない、有機運動の精神もまったく顧みない脱法的な決めつけに過ぎない。定義されていないから使っていいのではなく、定義されていなければ、有機の原則から考えて判断するのが筋であり、IFOAMもNOSBもその姿勢を持っている。農水省はコーデックス規格でやってはいけないと書いていないからやってもいいのだ、というのだ。もし、農水省が言うように、規格に明記されていなければ何でもやっていいというのであれば、今後、登場する新しい技術については当然、既存の規定には何も書いていないから、何でもできることになる。これでは有機基準は崩壊してしまう。
 
 ただし米国のNOSBはIM品種をまだ有機基準から排除していない。ヨーロッパでの有機農業では種苗も有機でなければならないので、IM品種は排除されるのだが、米国では有機の種苗を使うことが望ましいとされながらも有機種苗でないIM品種も許容されている。ヨーロッパの場合はすでにすべての作物品種リストが存在し、有機栽培で認められるリスト作りも容易だが、米国の場合はそのようなリストが存在しないため、実施しうるルールを作ることが困難であり、農家が種苗が得られなくて困難に陥ることを防ぐために、やむをえずIM品種もすぐには禁止せずに、今後に禁止を決定する対象として、棚上げにしているのだ。
 でも、それらを積極的に支持しているわけではない。「長期的には、有機栽培種子の使用が増えれば、 人為的突然変異由来の品種は有機栽培生産から段階的に廃止されるだろう」としている。つまりヨーロッパのように有機種苗の制度がしっかりすれば、IM品種は有機農産物から排除される、と見ているのだ。
 
 この文章は11月に行われたNOSBにおいて、出席委員全員の賛同を得ている。IFOAMやNOSBでも農水省の言う見解はどうにも正当化できない。
 
 日本だけ脱法的な重イオンビーム育種品種を有機認証を認めていれば、日本の有機基準が世界から信頼を失うだけであることは確実だろう。そうなる前に私たちの声で、そんな有機基準を勝手に農水省が決めることに対してノーの声をつきつける必要がある。
 ぜひ、オンライン署名にご参加を!

オンライン署名:有機基準は誰のもの?
https://act.okseed.jp/organicstandard

参考資料
(1) The IFOAM NORMS for Organic Production and Processing Version 2014
https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/MS%20Induced%20Mutagenesis%20Disc%20Doc.pdf

(2) National Organic Standards Board, Materials Subcommittee Discussion Document Induced Mutagenesis, Fall 2025
https://www.ams.usda.gov/sites/default/files/media/MS%20Induced%20Mutagenesis%20Disc%20Doc.pdf

(3) 重イオンビーム放射線育種に関するFAQ
https://v3.okseed.jp/ionbeam/faq#14

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