節水型乾田直播と重イオンビーム

 節水型乾田直播について、雑草イネの発生とその対処として農薬耐性イネが導入されるリスクについて11月20日に書いたが、その与える影響はそれに留まらない。土壌の状態にも大きな変化が生まれてしまうことを指摘する研究がすでに出ている。
 水田に比べ、乾田では土壌微生物の多様性が低下してしまうというのだ。環境ストレスや病害から微生物群は作物を守ってくれるわけだが、その機能が低下して、温度の変化、水分の変化、pHの変化にも作物は曝されやすくなり、病原菌にも弱くなる。
 土壌酵素活性が高くなるため、土壌中の有機物は活発に分解される。そのため化学肥料を入れてもすぐに分解されてしまうため、一時的には化学肥料を入れた直後は生育が促進されるものの、肥料はすぐに分解されて、流出しやすくなってしまう。
 
 化学肥料はより頻繁に撒く必要が生まれ、土壌の生物的緩衝機能が失われるので、農薬への依存も高まらざるをえないだろう。土壌の劣化は長期的に深刻な問題になる可能性が高い。
 
 そして、最後が最大の問題になるのだが、ごく微量以外は人体に有毒なカドミウムの吸収リスクが高まることだ。その要因は2つあり、水田ではカドミウムは沈殿・固定化されるのでイネはカドミウムをあまり吸わなくなる。でも乾田状態=酸化状態にするとカドミウムは吸いやすくなる。
 その上、カドミウムが根に入り込むのを防ぐフィルターの役割を果たす鉄プラークが、乾田にすると減ってしまうという。そのため、分げつ期(成長初期)におけるカドミウム吸収量が跳ね上がってしまう。つまり、カドミウム汚染米を作る可能性が高くなるということだ。
 
 これらの変化は何をもたらすだろうか? カドミウム汚染米など関係がなかった地域でも汚染米ができてしまう可能性が出てくるだろう。となると、重イオンビームを使ってカドミウムの吸収に関わる遺伝子を破壊した「コシヒカリ環1号」系品種(「あきたこまちR」はその一つ)の導入が計られる可能性が出てきてしまう。
 
 つまり乾田直播の推進によって、重イオンビーム育種米がより促進される条件が生まれてしまうということになる。農薬耐性や重イオンビームなど、人為的に遺伝子を改変した品種の普及をもたらす可能性を否定することはできないだろう。
 
 カドミウムの低いところで乾田にする場合はカドミウムの問題は大きくないかもしれない。それでも、輪作が不可欠になるだろうし、土壌も輪作や有機肥料などの活用で守っていくことが不可欠になる。結局、連作したら問題起きてしまうから、同じ田んぼから生産できる米の量は減る。水田ができない地域でやることはありえるとしても、水田ができる地域で水田をつぶしてまで乾田にすることはメリット以上にデメリットが多い栽培方法であることをマスコミはしっかりと報道すべきだろう。
 実際に節水型乾田直播は失敗する可能性も高い栽培方法であり、高価な播種機など高い投資と低い収穫も覚悟しないといけない。そして気候変動の影響も受けやすくなる。このことで儲かるのは企業だけで、結局農家はより厳しくなることになるだろう。今後の日本に大々的に推進すべきものではない。
 
The impact on Cd bioavailability and accumulation in rice (Oryza sativa L.) induced by dry direct-seeding cultivation method in field-scale experiments
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969724030225

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