MTST、ブラジル・ホームレス労働者運動

今回のワールドカップで世界に注目されるようになったブラジルの運動にMTST (Movimento dos Trabalhadores Sem-Teto)がある。ホームレス労働者運動。MST(Movimento dos Trabalhadores Rurais Sem Terra、土地なし農村労働者運動)の運動が都市のファベラに農村から追われてきた土地なしの人びとが放置された土地を占拠して、農地改革によって農地を得て農民になっていく運動だが、この運動から生まれた都市版の土地なし労働者運動と言っていい存在だ。放置された住居や空間を占拠して、住居を獲得していく運動(住居を獲得していく運動と書くと彼らの運動をかなり矮小することになってしまう。尊厳ある生活空間を獲得していく運動と言えばいいか)。

1997年にMSTの運動から生まれ、大衆的な運動によりサンパウロを中心に大きくなった。この運動のリーダーの一人がブラジルの公共放送のディベート番組(1時間18分)に出て、その運動がめざすものを語っている。

ワールドカップ直前にジウマ・ブラジル大統領とも直接的な交渉を行い、ブラジル政府のホームレス、貧困者の居住政策であるMinha Casa Minha Vida(私の家、私の生活)の見直し、サンパウロでの2千戸の住宅の建設などを約束させるなど、その活動の成果に注目が集まっている。

このディベートに参加したMTSTのリーダー、Guilherme Boulos(ギレルミ・ボウロス)はサンパウロ大学で哲学を学んだ中産階級出身のインテリである。実はMSTのリーダーであるジョアン・ペドロ・ステジルは経済学を学んだインテリであり、たとえば労働者党(PT)の創設時のリーダー、Lulaが現場の労働者からの叩き上げでリーダーとなったのと違う。こうなると日本だと、おまえはホームレスじゃないのにホームレスの運動やっているとかいうヤジが飛んできそうだが、MSTのステジルがそうであると同様、話しを聞いているとどんどん周りのものを引き込む力を彼は持っている。

MTSTの運動は宗教的なものではないけれども、ブラジルにある解放の神学、貧しい人びとの中に修道士が命を捧げていく伝統の中に位置づけて考えると理解しやすいのかもしれない。彼自身、占拠を行う活動をホームレスと共にしており、決して、書斎にいて、運動に命令しているわけではない(現在は普通の家に住んでいるという)。

どうもワールドカップの外を伝える報道は激しい抗議行動に目がいって、それをすべて反政府運動と見なしている人が多いかもしれないけれども、彼らの運動はMSTから生まれただけに非暴力直接行動を用いており、暴力的に反政府運動をやっているのとはわけが違う。暴力的な運動としてBlack Blocが有名だがそれとは距離を取っている。冷静な現実の分析から、人びとがどのように尊厳のある生活を取り戻すのか、方向性、目的を討論、共有しながら運動していることがわかる。

彼によれば現在のブラジルの都市の住居問題は規制から自由になった資本による活動に最大の問題がある。これらの資本は政府にも選挙などを通じて影響力を持つにいたっており、今や投機によってファベラの家賃も爆発的に高騰し、貧困者はより遠い居住地に追いやられる。ひどい交通ともあいまって遠隔地に追いやられた貧困者の生活レベルはとても厳しい状況に追い込まれる。

MTSTのデモ(MTSTのFacebookより)

この土地の投機により金を儲ける資本こそが最大の敵であると彼は見ており、政府にその規制に動くように求めるのが1つの軸になっている。先日にはサンパウロで大きなデモを組織している。こうした方向性には底辺の貧困層のみならず、中産階級でも賛同する人が少なくないだろう。知識人層も説得するその分析力、論理展開力を持っている。そして、現場のホームレスを非暴力で組織していく直接行動の行動力によって、少なからぬ人びとの生活の場を作り上げてきた実績がある。政府とは緊張関係を持ちながら付き合う姿勢を堅持する。

ブラジルでも資本が住宅地の土地を投機の対象とすることには規制があった。その規制が取り払われ出したのは軍事独裁に始まるという。政府に影響力を持つこの資本家たちは次から次へと規制を廃止させ、今やサンパウロの家賃は東京なみに高い。

単に住居を作らせることを求めているのではなく、尊厳のある生活を総合的に可能にする政策を求めるMTST、その展望は今後とも注目に値するだろう。

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