微生物、病害、気候変動

 最近、講演で話しをする時に微生物の話しから始めることが多い。地球に生まれたこの微生物の果たしている役割を知ることで今、起きている問題をより理解できるし、その解決策も見えてくると思うからだ。
 微生物の力を借りて、植物もわれわれも生まれてきた。その力がなければ生き長らえることもできない。「共生symbiosis」という言葉は使い古されてしまったかもしれないが、根圏細菌Rhizobacteriaと菌根菌糸Mycorrhizal hyphae、そして植物の関係を知る時、あらためて生命が互いに支え合ってこの生態系を支えているか、そのダイナミズムに心を奪われてしまわざるをえない。

 根圏細菌は植物に窒素やリン酸など植物の生存に不可欠の栄養を提供するだけでなく、植物を病原菌の攻撃から守る。しかし根圏細菌は動くことができない。

 一方、菌根菌糸は根が入り込めない地下の微細な部分にも分け入り、植物に必要なミネラルを提供していくだけでなく、動けないものたちをつなぐ地中のネットワークを提供する。

 根圏細菌はバクテリア、菌根菌はキノコの一種。植物が提供する炭水化物が微生物すべてのエネルギーとなる。この活動により、大気中の二酸化炭素は地中に炭素として蓄えられ、地面に有機質が蓄えられる。それが生命の基盤となる。

 しかし、化学肥料の大量投入により、この循環が止められてしまう。共生菌による防御を失った植物はさまざまな病虫害にやられやすくなり、農薬が不可欠となり、その農薬はさらに土壌微生物の力を奪っていく。そして土の中の炭素が失われていく。膨大な気候変動ガスが土から放出されている。アル・ゴアの『不都合な真実』が語らない巨大な問題がここにある(左側が化学肥料を入れた場合、右側は自然な共生によるもの)。
 世界の少なくとも3分の1あるいは半分とも言われる土壌がこうしてすでに傷んでしまっている。土は地球上の炭素の最大の貯蔵庫であり、土壌劣化、喪失こそが化石燃料の消費と並ぶ気候変動の根本的な問題であり、逆に言えば、この土の回復こそが気候変動の解決策となる。その上で、主役はこうした微生物だ。

 現在作られている薬の大部分は実はこうした微生物が作り出した物質が素になっている。抗生物質もまた微生物が作り出した物質から生まれた。彼らはまさに生命の源であり、われわれの生命をつなぐ栄養をもたらすものであり、そして生命を守る盾なのだ。
 でも、人類はまだその存在のほんの一部しか知っていない。世界で存在が確認された真菌類は約10万種あるらしい。でもそれは真菌類全体の数%に過ぎないだろうという。人類はその存在や力を知る前にその貴重な存在を破壊しつくそうとしている。人類が知る前にこの多様な生命が失われつつある。そして知ることができたわずかな微生物には多国籍企業が特許をかけて独占しようとする。
 だから、これは生存をかけた闘いとならざるをえない。多様な生物の共生に基づく世界を築くか、それとも、その絶滅をもたらす道を選んでしまうのか。どのようすればその危険を避けることができるのか?

 それを語るドキュメンタリーが作れれば、大きな方向転換も可能になるのではないだろうか? 現在の危機から脱出するためには根本的な方向転換がどうしても必要だと思う。自分たちの命とそして世界の環境のつながり、そして現在のそれを破壊する動きが進んでいることが結びつけて理解されることは大きな行動の変化をもたらすだろう。

 以下の短い短編フィルムは上記の話しの一部をわかりやすく語ってくれる。特に根圏細菌と菌根菌糸の役割の違いはおもしろかった。12分弱の英語だけど、動画見るだけでもイメージがわくと思う。

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