Kiss the Ground: 気候変動を止めるRegenerative Agriculture

 気候変動を激化させ、世界の土壌をあとわずか60年で崩壊させかねない状況に追い込んでいるのは戦争技術が作り出した工業型農業システム。
 しかし、生態系のシステム、特に土壌微生物の動きに学び、その力を生かす農業に転換すると、現在の危機的状況は劇的に変えることができる。気候変動を抑制するどころか、かつてそうあった安定した状況にまで危険な技術を1つも使わずに取り戻すことができる。そんなことは夢のように思われるかもしれないが、科学者たちもその力に太鼓判を押す。
 生気を失い砂漠化した工業的農業システムの畑に、豊穣な生態系の力を引き出す農園が広がる。そして、前者の農場で働くものは国からの補助金がなければ赤字経営になってしまいかねないのに対して、後者の生態系を生かした農園は大きな富をもたらす(米国の平均の1エーカーあたりの利益は3ドル以下、それに対してRegenerative Agricultureを実践する農家の農園は100ドル以上をもたらす)。だからこうした農業の進展が止まらない。年々強まる気候変動の猛威を前に希望を失っていると、なんという夢物語だと思うかもしれない。でもこれは夢ではなく、実際に動いている、十分達成可能なもの。
 その姿を描いたドキュメンタリー映画 “Kiss the Ground”。Vimeoで120円で視聴できる(ただし、Vimeoは英語。字幕なし1時間25分)。Netflixでは日本語字幕もあるとのこと。ぜひ、多くの人に見てもらいたい。


 こうした農業を Regenerative Agriculture と呼ぶが、日本語では環境再生型農業などと訳してきたが、映画を見終えて、環境再創出型農業と表現した方がいいように思えた。再生という以上に創出(generate)するのだから。

 ただ、このやり方にはいくつか気を付けなければならないことがある。
 その1。土壌を守り、化学肥料や農薬の使用を減らしていくことで環境は戻ってくるのだが、この実践は今、大規模化されつつある。一定の大きな規模でもできることは環境を取り戻す上では意義はあるものの、これが小農の権利を奪うような形で進展する可能性も否定できない。企業型農業に吸収されてしまえば、いかに環境的に維持可能であったとしても社会的におかしくなってしまい、維持できなくなることはありうる。企業農業が社会的格差を作り出し、その格差を社会が解決できなくなる危険がある。小農の権利をしっかり守る視点が不可欠。この観点はこの映画は弱い。
 そしてその2。Regenerative Agriculture で重視される不耕起(耕さない)農法だが、土を守るためには大事な視点だけれども、不耕起であればいいとは言えない。というのも実は遺伝子組み換え企業は自分たちこそが不耕起農法を広めてきたという虚偽の宣伝を重ねているからだ。いくら不耕起だからと言っても、土壌微生物を損なうラウンドアップや化学肥料を振りまくのではまったく不耕起の意味はない。こうした企業に乗っ取られないためには、種子のレベルから闘うことが不可欠にならざるをえない。はやりの動きに乗りたがる多国籍企業をどう押さえるのか、それにはやはり社会運動が不可欠なのだ。

 小農の権利を守り、そして、遺伝子組み換え企業に対して種子を握られずに守る農業は世界ではアグロエコロジー+食料主権の運動として描かれる。その実現には社会運動の存在が欠かせない。いくら革新的な企業だとしても、その実現を代行することは不可能であり、この世界を実現させるのは、小農、消費者、市民が主人公となった社会運動が鍵となる。

Kiss the Ground https://kissthegroundmovie.com
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