新型コロナウイルスは食のシステムを変えるきっかけになるという話が海外からボンボンと飛び込んでくる。
農場で働く移民労働者が国境を越せずにスーパーに生鮮食料品が不足、家庭菜園をやってみようという市民が急増。でも、タネがない。英国では需要は600%増えたものもあるという(1)。タネもよその国の農場でまとめて作って輸入するのではこんな時は止まってしまう危険がある。野菜の種子を9割海外に依存する日本は脆弱すぎるほどだが危機感のほどはどうだろう?
結局、グローバルな食のシステムが止まったら何が起きるか、世界の多くの人たちが知ったということだ。タネからローカルに育て、そのタネを共有することがわたしたちの生存に欠かせない。
しかし、こうしたタネを確保する上では大きな障がいがある。6割以上のタネが4つの遺伝子組み換え企業に独占されているという現実である。こうした企業は小さな種苗会社にも脅迫めいた手紙を定期的に送るという。遺伝子組み換え企業BASFが小さな種苗会社に送った手紙ではBASFが特許を持つ遺伝子を含む種子はトマトであれ、タマネギであれ、許諾なく売れば特許違反だと脅す。小さな種苗会社は訴えられれば廃業に追い込まれてしまうだろう(2)。
育成者権に加え、特許によって種苗会社はますます寡占化していく。種苗の多様性は失われてゆき、その生産は人びとの生産現場から離れていく。そして感染症の蔓延や気候変動の激化によって人びとがタネを得られなくなる危険は高まっていく。農家の取り分は毎年、世界的に減っている。なぜかといえば、種子企業、化学肥料・農薬企業(住友化学は1社ですべてを兼ねる)などの企業への支払いがどんどん大きくなり、生産単価、農家の収入は抑えられる。世界の政府は多国籍企業に買収され、政策が変えられてしまう。
こんな中、こんな流れをがらっと変えるラディカルなアイデアや運動が世界で生まれてくる。それはタネを公共のものに戻そう、タネはみんなのものであり、<コモン>として公共財産として管理しようというものだ。もちろん、種採りの活動は公的なお金で支援が必要だ。公共財産を作り出す育種家はその中心的な役割を担うだろう。独占するために、農薬をいっしょに売りつけるために新品種を作るのではなく、地域のため、人びとのために作る。これは食の未来を変える力を持つだろう。未来を作り出す大きな動きになっていくだろう(1)。
なぜなら、この問題はすべてにつながるからだ。地域の食料保障や健康はもちろん、気候変動激化・生物大量絶滅の回避にも、水資源の保全、土壌の保護にも関わる。これなしにこれらの問題は解決できないと言ってもいい。一石何鳥の政策? だから世界各地で急速に大きくなりつつある。そして、金・資本が資本主義の原理であるとしたら、ポスト資本主義の原理はタネかもしれない。独占と求めてやまない資本と違って、タネは共有することでより発展するのだから。
工業分野でも特許はむしろ産業の成長を妨げることがある。たとえばソフトウェアの分野だ。特許を認めて、ソースコードを見せなくしてソフトを売る。これが当たり前の時に、ソースコードもすべて共有すべきというオープンソース運動が生まれた(というか元々ソースコードは自由に共有されていたものだった。それをマイクロソフトなどが独占するビジネスモデルを作ってしまった)。以前は「オープンソースでは発展しない」などとビル・ゲイツに揶揄されたが、それから数十年、今や、ほとんどのOSはオープンソースがベースとなり、オープンソースのソフトがなければ社会が回らないまでになった。
しかし、日本政府は種苗法改定で育成者権だけ偏重し、さらに特許法との整合性を高め、農産物の特許化も推進しようとしている。農村基盤を弱めて、現場での優れた育種家を育てる政策には手を付けず、「ゲノム編集」などのバイオテクノロジーには大々的な予算を投入する。本来、必要なものに力を注がず、特許支払いなしにはできない技術の方向に進めようとしている。それは世界の動きと真逆を向いている。日本が直面している本当の解決にはならない。日本政府が依拠する独占を進める国際条約UPOVを変える要求も強まりつつある(3)。
政府の政策を変えるには時間がかかる。今、人類が生存危機を回避するために残された時間はわずかしかない。でも、この運動を始めることはすぐにでもできる。地域からタネのあり方を変えることから始めることには何の制約もない(4)。
(1) 種子の運動は種子を公的に保有すべきだと要求する
Seed saving movement calls for seeds to be publicly owned
https://www.theguardian.com/uk-news/2020/dec/28/seed-saving-movement-calls-for-seeds-to-be-publicly-owned
(2) 特許はいかに小さな種苗会社を脅かすか
Op-ed: How Patents Threaten Small Seed Companies
https://civileats.com/2020/09/11/op-ed-how-seed-patents-threaten-small-seed-companies/
種子への特許に反対する署名
Petition against patent monopolies on seeds!
https://www.no-patents-on-seeds.org/en/activities/petition
種子への特許を監視する市民団体
Seed Patent Watch
https://seedalliance.org/resources/seed-patent-watch/
ビル・ゲイツなどがいかに世界の種子を支配しようとしているか?
One Empire Over Seed: Control Over the World’s Seed Banks
https://www.organicconsumers.org/news/one-empire-over-seed-control-over-worlds-seed-banks
(3) 日本政府が依拠するUPOV条約とは異なるあり方を求める世界の声
Plant Variety Protection – Which Way?
https://www.apbrebes.org/content/plant-variety-protection-which-way
(4) EU31諸国の種子を守る団体による種子を共有するオンラインプラットフォーム Seeds4All すでに2万4千種が登録される。
New Seed Platform – Seeds4All – Launches
https://www.arc2020.eu/new-seed-platform-seeds4all-launches/
災害にも強い種子共有ネットワークの提案
RESILIENT SEED SYSTEMS: SHARED ACTION FRAMEWORK
https://futureoffood.org/research-and-tools/resilient-seed-systems-saf/
米国での先住民族の種子がパンデミックの中、活躍する
A New Native Seed Cooperative Aims to Rebuild Indigenous Foodways
https://civileats.com/2020/11/10/a-new-native-seed-cooperative-aims-to-rebuild-indigenous-foodways/
EVERY SEED IS A SYMBOL OF RESISTANCE
https://terramadresalonedelgusto.com/en/every-seed-is-a-symbol-of-resistance/
Gardening is Important, But Seed Saving is Crucial
https://civileats.com/2020/04/21/gardening-is-important-but-seed-saving-is-crucial/