だから言わんこっちゃない。三井化学が作る稲の品種「みつひかり」が消えるかもしれない。交配不良で十分な品質の種籾が作れなかったからだという。天候不順が理由にされている。「みつひかり」は稲ではめずらしいF1品種。毎回、異種交配させないといけないからタネを作る負荷も通常の固定種よりも高い。気候変動に弱いことが露呈したと言えるかもしれない。
2017年に種子法廃止を決めた理由は種子法があると民間企業が活躍できないからというものだった。その種子法が2018年に廃止され、すでに5年が経とうとしているのに、民間企業が活躍しているという話は聞こえてこない。
三井化学と民間の稲品種で競っているのが住友化学。生産を5年で「つくばSD」などの生産を55倍にするという野心的な事業計画を2015年に発表し、住友化学の重点項目として掲げたのに、それはすぐに重点項目から消えてしまい、このロードマップ(生産拡大の目標)も株主レポートから消えてしまった。大幅な下方修正をせざるを得なかったことが伺える。
つまり、種子法廃止の目的である民間企業の事業を拡大させるということは実現どころか真逆の事態が進行している。民間企業に種子を任せても、民間企業は儲けがでなければ突然その事業を放棄してしまうことが起こりうる。こうした事態になることは十分予測できたから、種子法廃止は愚策であり、失敗だったのではないか、と廃止後、農水官僚に詰め寄ったのだけど、結果が出るのには数年かかるから現状で判断すべきではないと答えていた。そしてすでに5年が経って、その成果はどうだったか?
もし民間企業に任せて、地方自治体が種籾の供給から撤退していたらどうなっていただろうか? 「今年はタネは供給しません」なんて田植えの直前に報告されるのでは話にならない。食料危機、飢餓になりかねない。だから主食のコメを民間企業に任せるというのは愚策以外の何ものでもない。
国会で種子法廃止の与えた影響を客観的に検証することが不可欠なのではないか? 農水官僚はもっと待ってくれ、というかもしれないけれども、もっと待ったら、民間企業の種子の生産拡大ではなく、民間企業の種子事業の清算拡大が起きていることになるんではないだろうか? そこから再び、地方自治体が頑張らなければならない、という話になったとしても、その時には地方自治体の種子事業は新規雇用もされていないから、それを担う人材も失われていて取り返しがつかない事態になってしまっていることは十分考えられる。
種子法廃止を契機に栃木県はそれまで地方交付税を入れて作っていた原種生産の費用を農家に転嫁することを決めた。税金で作っていたものを農家に払え、ということで、原種の価格は一気に3倍以上に高く設定されることになった。つまり種子法廃止とは栃木県などでは行政の責任を農家の負担に転嫁する結果をもたらしている。気候危機、生物絶滅危機などの多重危機が同時進行する中、多様な地域の種苗を守る必要は高まっているのにそれに背を向けて、投入する予算を減らすことだけが種子法廃止の成果と言えるかもしれない。
そもそも種子法廃止や種苗法改正は1990年代に始まった公的種苗事業の民営化のプロセスの最終章のものであって、そこに巻き戻すだけで済むわけではない。イタリアや韓国のようにさらに地域の在来種を守る政策を作り出すことがなければ、今後の環境激減が予想される中で対応が困難になる。この20年間、世界2位の新品種開発国の地位から落ちた日本はこのままではさらに落ち込むだけである。みどりの食料システム戦略でも種苗政策は欠如している。過去の政策を検証して方向修正することは、不可避であるはずだ。国ができないなら地方自治体に権限移譲して、その種苗生産体制を強化すべきである。
みつひかり種子「今年は出荷せず」 生産元通告、一大産地の岐阜困惑
https://www.chunichi.co.jp/article/640456
住友化学の計画の失敗について2020年7月12日の投稿
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/pfbid02Jkr8TF9WPQbXLBSuRfsXeFo5CHTDE6ymLFuRrmft9dwS7Mcg18yA532NDDgitQKyl
住友化学経営戦略説明会資料2015年12月 この時点ではお米は5年で55倍に
http://www.irwebcasting.com/20151202/1/295c0e1666/media/20151202_sumitomochem_ja_a_edit02.pdf#page=30
住友化学 IR Day 2022 この資料の中には種苗事業は出てこない
https://www.sumitomo-chem.co.jp/ir/event/files/docs/221208.pdf
住友化学インベスターハンドブック。つくばSDの事業は書かれているが生産目標は消えている。
https://www.sumitomo-chem.co.jp/ir/library/investors_handbook/files/docs/202208handbook.pdf