カーボンファーミングには要注意

 気候危機に対して有機農業・アグロエコロジーはもっとも有効な解決策の1つなのだが、このロジックを悪用した「カーボンファーミング」にはとんでもない罠が存在している。バイエル(モンサント)による「ゲノム編集」カバークロップを使った遺伝子組み換え農業の強制が進みかねない。デタラメな「カーボンファーミング」に要注意。
 土をよくすることは同時に多様な土壌微生物が生きられる環境を作ることであり、植物は豊かに育ち、また空気中の二酸化炭素も土の中に入っていく。これこそ、工業型農業によって破壊された環境を回復する上で鍵となるのだが、二酸化炭素に目をつけて、排出権取引を設定してしまうというのがまず第一の罠。つまり、環境にいい農業をやったら、炭素クレジットが得られて、それを二酸化炭素を排出した企業が買えるというものだが、これはNG。なにより企業が二酸化炭素排出を削減することが重要なのにそれをごまかすことにつかわれてしまう。その企業は二酸化炭素を排出し続けながら「環境に貢献してます」という偽りのメッセージを正当化してしまう。第2の罠は、この排出権取引を背景にユーカリなどの単一品種の大規模植林が行われてしまうこと。これは生物多様性を破壊するだけでなく、地域社会にも大きなダメージになる。広大な土地で住民が追い出されて企業に独占される一方、大規模植林は地域には職も食も生まないからだ。緑に貢献してます、とはほど遠いのにそんなメッセージばかりが伝えられる。
 
 でも、さらに大きな罠がある。それがバイエルの新しいプログラムForGroundだ。
 「カーボンファーミング」で不耕起栽培は重要な要素になる。もちろん、不耕起栽培は土壌を破壊しない農法として重要だが、モンサント(現バイエル)はモンサントの遺伝子組み換え大豆栽培を不耕起栽培として宣伝してきた。不耕起栽培は土壌微生物叢を破壊しないから重要なのだが、モンサントの遺伝子組み換え農業では土壌微生物に破壊的なラウンドアップを用いるから、まったくその意義は相殺されてしまう。それなのにモンサントはずっと米国で不耕起栽培をリードしてきたと宣伝してきた。
 モンサントは農家にスマホやタブレットで農場をモニターするサービスを行うClimate Corporationを買収したが、モンサントを買収したバイエルはこのカーボンファーミングを組み合わせたForGroundというサービスを始めた。このサービスを穀物商社が採用すると、どうなるか? 穀物商社は取り引きする農家の農地が固定している二酸化炭素を自社の成果として利用できるが、そのためには取り引きする農家全員がこのサービスへの加入が義務付けられるだろう。このサービスを使えばバイエルが使っているタネから農薬、化学肥料、生育状況などの農家の情報をすべてバイエルが逐一管理できる。このサービスを使わない農家は取り引きから排除される。こうなればすべてはバイエルのものになってしまう。
 
 そして、この「カーボンファーミング」で強調されるカバークロップもバイエルが手を回している。しかもそれが「ゲノム編集」されたCoverCressとなることが想定される。バイエルはこのForGroundを開始した月にこのCoverCressを作る企業の過半数の株を取得している。
 
 実際にこの「カーボンファーミング」で土壌微生物が豊かになるとは到底考えられないし、二酸化炭素が安定して固定されるとは考えにくい。しかし、カーボンゼロの美名のもとで、このような遺伝子操作作物の栽培が拡大していく可能性がある。
 
 バイエルと結託した巨大商社に牛耳られる農業ではなく、地域の市場と直接に結びついた農業のシステムを発展させていかないと、生態系、気候危機は止められないだろう。地域社会と一体となった有機農業・アグロエコロジーこそが解決策である。
 
The corporate agenda behind carbon farming
https://grain.org/en/article/6947-the-corporate-agenda-behind-carbon-farming

CoverCress
https://www.covercress.com/

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