ブラジルの反飢餓政策の復活:ホームレス運動による「連帯キッチン」が政策に

 食と政治の関係、もっともドラマチックに表現しているのがブラジルかもしれない。ブラジルは飛び抜けた極少数の金持ちが過半数の農地を独占する一方で、多くの飢餓状態の人びとが苦しんでいた。1993年以降、市民による反飢餓運動が全国に広がり、ついに2001年、労働者党の大統領が選ばれる。そして生まれた飢餓ゼロの政策と小規模家族農家を支援する政策。飢餓人口は急速に減少し、2014年、国連の飢餓マップからブラジルは消えた。
 
 しかし、これに気に食わないのが多国籍企業と結びついた大土地所有者たち。大金を投じて、マスメディアやSNSを使ってデタラメな情報を流し、労働者党政権の転覆に2016年成功し、その後、極右大統領を生み出した。貧困層の食を支えていた労働者党政権の学校給食計画(PNAE)、食料調達計画(PAA)は覆され、アグロエコロジー支援政策も消え、大土地所有者とアグリビジネス(農薬・遺伝子組み換え企業、穀物商社など)を利する政策ばかりになった。その結果、ブラジルでは貧困層が再び現れ、2022年、国連の飢餓マップに再び登録される厳しい結果となる。
 
 これに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルス感染の蔓延。特に貧困層は収入を断たれ、飢餓状態に陥る人の数は7000万人に達したと言われる。ここでホームレス労働者運動(MTST)が2021年に始めたのが「連帯キッチン(Cozinha Solidária)」。寄付によって最貧層に無償の食事を提供している。すでに13州の46箇所に作られ、200万食を提供したという。
 
 この連帯キッチンが先日下院で承認されたブラジル政府の食料調達計画にも組み込まれた。この食料調達計画は政府が直接農民から農作物を買い上げる公共調達政策で、それは地域の学校給食などで活用されるのだが、今回の計画では最貧層への食料支援が新たに加わったことになる(1)。
 そして、基礎食料への課税は免除されることも決定された(2)。
 
 極右大統領の下で社会的分断が拡大していたブラジルだが、再びルラ労働者党政権の下で、市民の参加による食料栄養保障全国協議会も復活、アグロエコロジー政策が復活しつつある。そして飢餓人口も減っていくことだろう。もっともアグリビジネスはそれを黙ってみていない。どうなるか目が離せない。
 
 果たして日本の食料政策はどうなるのか? 日本では貧困層が急増し、離農者も激増し、輸入できる環境もなくなりつつある中、食料危機がこのままでは必至なのに、政府が掲げる政策はあくまで企業優先、輸出第一主義だ。これではまったく現在の危機に立ち向かえない。
 米国からの農産物を優先する食における日米安保体制はまったく変わることなく、官僚からは自分の頭と足を使った政策が出てきそうにない。このままでは食料危機に曝されるのはブラジルではなく、日本になってしまう。日本の状況を変えるには、やはり日本でも地域で地域の食料政策を組み立てていくことから始めることが有効な対抗策になるだろう。

(1) Câmara aprova PL do Programa de Aquisição de Alimentos: ‘Dia histórico no combate à fome’
https://www.brasildefato.com.br/2023/07/07/camara-aprova-pl-do-programa-de-aquisicao-de-alimentos-dia-historico-no-combate-a-fome

Jessé Souza: ódio contra o pobre produz 70 milhões de pessoas com fome no Brasil
https://www.redebrasilatual.com.br/cidadania/jesse-souza-odio-contra-o-pobre-produz-70-milhoes-de-pessoas-com-fome-no-brasil/

(2) Reforma tributária isenta cesta básica; mas que cesta?
https://www.brasildefato.com.br/2023/07/10/reforma-tributaria-isenta-cesta-basica-mas-que-cesta

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