日本政府はモンサントの農薬グリホサートの残留基準値を大幅に緩和する通達を12月25日に出した。そのことによって日本の住民は遺伝子組み換え大豆以上に小麦からグリホサートを摂取してしまうことになる。
なぜ、遺伝子組み換えされていない小麦によるグリホサートの摂取量が増えるかというと、米国などでは小麦の収穫直前にグリホサートを撒く(プレハーベストとよぶ)ようになっているからだ。小麦はグリホサートに耐性がないので、枯れてしまう。でも枯らすことで乾燥でき、しかも収穫後、草も生えなくなる、一石二鳥ということで年々、使用が増えている(小麦は枯れる前にすべての力を種子に集めるから収穫も増えるという説もあるが根拠はわからない)。収穫直前に撒くから収穫された小麦には遺伝子組み換え大豆と変わりないグリホサートが残留してしまうことになる。今回の残留基準値の変更では小麦の残留基準値は大豆の20ppmを上回る30ppmとなる。
ただし、大豆では日本でもすでにこの収穫前散布が認められており、日産化学はそのプロモーションページを作って売り出している。遺伝子組み換え大豆の登場によってすでに残留基準は高く設定されているので、収穫前散布して大豆に大量にグリホサートが残留しても基準超えにはならない。だから、国産大豆だから安心などと言ってはいられない。プレハーベストされている大豆かもしれないからだ。
実は日本政府自身がこの緩和によって、グリホサート推定摂取量がどうなるかを試算している(摂取量というより被ばく量と呼ぶべきだとは思うが)。
年齢層によって摂取量は微妙に変わるので、ここでは一番気になる幼少児の順位を掲げておく。乳児や子どもたちは代謝が活発であり、また防御機構となる免疫も未熟であるため、もっとも影響を受けざるをえないが、グリホサートが影響を与えるのは幼少児に限らない。妊婦は幼少児と同様もっともグリホサートを避けなければならないが、グリホサートが高齢者の認知症を引き起こしている可能性は十分高い。あらゆる年齢層で避けなければならない。
幼児のグリホサート被ばく推定量
それぞれの年齢層での順位をソートできるようにExcel形式の表計算ファイルにしたので、関心のある人はダウンロードしてほしい。
グリホサート年齢別被ばく推定量Excel形式ファイル
この順位で低いからとりあえずグリホサートについては安心できると思うかもしれないけれども、グリホサートは内分泌撹乱物質としてきわめて低い濃度で影響を及ぼしてしまう。さらには他の農薬を使っているケースもあるから注意が必要だろう。
実はこの小麦へのグリホサートのプレハーベスト散布、自分たちの母乳を検査したMoms Across Americaのお母さんたちが直面した問題だった。自分たちは遺伝子組み換えを食べてないのになぜ母乳からグリホサートが検出されてしまうのか、遺伝子組み換えを避けるだけではダメで、有機を選択しなければならない、ということになり、有機農業支援へと大きな弾みがつくことになった。
個人的にもっとも気になっていることにグリホサートが生殖に与える影響がある。グリホサートは男性の生殖力にも大きな影響を与えている可能性がある。グリホサートが世界で大量に使われてから10年しか経っていない(1974年からモンサントがラウンドアップの商品名で売り出しているが、これまでの全使用量の7割はこの10年に使われている)。この10年で生まれてきた子どもたちが成長して子どもを作る時にどのような影響を与えているだろうかと考えざるをえない。動物実験では生殖力に影響を与えているという研究結果が出ており、人間にどのような影響を与えるのか、その深刻さは私たちはまだ知り得ない。すでにこの10年間、不妊症で悩むカップルの数はすでに増えている。将来世代の幸福を奪ってしまうグリホサートの使用は即刻停止しなければならない。その逆に大幅緩和する日本政府の対応には怒りを感じざるをえない。
さて、日本ではどうすればいいだろう? もうお手上げなのだろうか? 決してそうではない。グリホサートを禁止に追い込めばいいし、事実、世界的にグリホサートの禁止を求める運動は年々高まっている。フランス、イタリア、オーストリアは3年以内に禁止する方向に踏み出している。ドイツもそれに続くだろう。小麦を買う時は有機を選べるとしても加工食品と考えるとグリホサートが使われていない食品を選ぶことは確かに難しい。加工食品をできるだけ避けることは可能だろうし、そして加工食品の安全性を企業に要求していくことは可能なはずだ。そして何より、日本国内の有機農業、減農薬に向けた取り組みを支援することだ。自分自身、自分の家族、そして将来世代、さらには世界でグリホサートに被ばくし続ける人びとのためにもできることは山のようにある。
参考
グリホサートの推定摂取量(妊婦) (PDFファイル)
グリホサートの推定摂取量(高齢者)(PDFファイル)
グリホサートの推定摂取量(一般) (PDFファイル)