WTO閣僚会議がアルゼンチンのブエノスアイレスで12月10日から13日まで開かれている。この会議を利用してEUはメルコスール(南米南部共同市場、MERCOSUR)加盟諸国に農民の種子の権利を奪うUPOV1991年条約の批准を押しつけようとしていることが環境団体によって暴露された。
このUPOV1991年条約を批准すると、種子企業の育成者権を守るという名目のもとで、農民の種採りする権利が制約されたり、最悪の場合には実質的に種子企業から種子を買わない限り農業ができなくなる国内法の制定が義務付けられる。このUPOV1991年条約は米国との自由貿易協定やTPPなどを通じてラテンアメリカ諸国に押しつけられてきた。それに対してラテンアメリカの農民はこの条約の押しつけとそれに伴う国内法を「モンサント法案」と呼んで大きな反対運動を組織してきた。
こうした条約を押しつけているのは米国政府だけではない。米国以外に日本もEUも南の国々の政府に押しつける側である。ヨーロッパの種子企業は世界トップ10社のうち半分の5社を占める。さらにバイエルによるモンサントの買収が承認されたら、そのEUの比率はさらに高まる。世界の農民から種子の知的所有権で儲けたい企業は先進国に集まっている。
メルコスールの構成国は南米12カ国にのぼる(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラ、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナム)。もし、このEU-Mercosurの協議が成立してしまうと、その影響は多大なものとなってしまうだろう。成立しないことを祈るばかり。
GreenpeaceによるEU-Mercosurでの知的所有権の押しつけ暴露の中味
WTOは遺伝子組み換え農業の世界化を進めてきた機構であり、遺伝子組み換え作物の輸入を禁止しようとすると、それを不公正な貿易障壁として告発することにより、世界の人びとに遺伝子組み換えを食べさせることを義務化させる動きを作ってきた。
WTOが果たしてきた役割はそれに留まるものではない。各国の農業を守る法制度を次々に撤廃させ、工業型農業を推し進め、小規模農家を離農に追いやってきた。このWTOではVia Campesinaが「WTOは小農民を殺す」というメッセージを掲げて、「WTO出てけ」と声を上げている。実際にこうした「農業改革」で農業を続けられなくなった数多くの農民を死に追いやってきた。韓国の農民運動をまとめあげ、議員にもなった李京海(イキョンヘ)が2003年、カンクンWTO閣僚会議で、WTOの農業政策が農民を死に追いやろうとしていることに抗議の自殺をしたことも思い起こす必要がある。
WTOで打ち出される決定が多国籍企業を利し、農民、漁民をはじめとする市民の権利を損なうものとなっていることは明らかだが、各国政府は交渉後、そのままそのままWTOの決定を実施しているわけではない。一方で、小規模家族農業を守る必要性は国際的に認識されつつあるからだ。環境面、食料主権・食料保障面、社会面など多面的にその重要性は明らかにされている。
しかし、日本政府は小規模家族農業の必要性を完全に無視する政治に突き進んでいる。日本は世界でもっともまずい方向性に突き進んでいると言わざるをえない。まずはWTOに対して世界の市民が何を言っているのか、耳を傾ける必要があるだろう。