WikiLeaksがTPPの知的所有権項目のテキストをリークした。その内容は想像していた通りだった。「モンサント法」の世界化である。
TPPや米国との自由貿易協定でラテンアメリカ諸国には「モンサント法案」が押しつけられた。この法案は総じて、
・ 農民が種子を保存することを犯罪として取り締まる。
・ 農民が種子を他の農民と交換・共有することを禁止する。
・ 農民は毎回、政府に登録された種子を購入しなければならない。
とするものだ。ラテンアメリカでは諸国では激しい反対運動が繰り広げられ、こうした法案は葬り去られている。TPP批准国ではメキシコとチリにこの法案が登場し、どちらも廃案となったが、もしTPPが成立してしまえば再び、この法案が登場してくるだろう。
今回のTPPのテキストでは種子企業の知的所有権の農民の種子の権利への優越を定めたUPOV91年条約の批准がTPP参加国に義務化される。そしてそれを受けて、農民の権利を制約する国内立法を策定する義務が課される。
その結果、どうなるか、農民の種子に対する権利は大幅に制約される(市場に出さない農作物は許されるだろうが、ひとたび、売り買いが発覚すれば逮捕などの対象になる)。また、種子企業は種子を発明したわけではないにも関わらず種子の発明者としての特権が保護される。
たとえばインド政府はモンサントをバイオパイラシーで訴えている。インドの遺伝的資産であるナスを勝手に盗んで、それをBtナスとして遺伝子組み換えしたことが生物資源の盗賊行為(バイオパイラシー)であるからということである。
しかし、このTPPのテキストがグローバル化すればこうした生物資源の保護制度は弱められ、バイオテク企業が盗み放題になるだろう。
ニュージーランドでは先住民族マオリにその土地と自然に対する権利が一定、英国統治時代から認められており、Waitangi条約として残っている。これゆえにニュージーランドはUPOV91に署名していない。このテキストではニュージーランドが特別にマオリに対する保護政策を打ち出すことを認めるとしているが、マオリが持つ植物に対する権利とUPOV91条約は矛盾する。
もし、このマオリの権利の保護条約を守るのであればニュージーランド政府はTPPを認めることはできないはずだ。
UPOV91年条約日本、米国、オーストラリア、ペルー、シンガポール、ベトナムは批准しているが、チリ、メキシコ、マレーシア、ニュージーランド、ブルネイは批准していない。世界でもまだ51カ国しか署名していない人気のない条約である。当然、それぞれの国の農民が持っている権利を米国や日本などの多国籍バイオ企業の権利に持って行かれるのだから批准したくない国が多いのは当然だろう。それをTPPで半数の国に強制し、TPP以外の国にもそれをグローバルスタンダードとして押しつけようというのだろう。
本来、種子や動物の遺伝子資源は人類共有財産であり、特定の企業の独占的所有物にすべきものではない。改良行為に対する適切な報酬を可能にする仕組みは当然、あっていい(ただし、現在の遺伝子組み換え種子が報酬を払うに値する改良であるかはまったく別に評価が必要だろう)が、種子企業の排他的特許(しかも種子の発明者として)を認めることは種子の本来の発展をねじまげるものであり、許されるものでは決してない。
公共の富、共有財産を私物化するこの動きに、人びとはもっと怒るべきだ。
TPP Treaty: Intellectual Property Rights Chapter – 5 October 2015
https://wikileaks.org/tpp-ip3/
追補: ラテンアメリカでは「モンサント法案」は葬り去られていると書いたけれども、例外が2つある。1つはコロンビア。ここは農民たちが知らない間にモンサント法を通してしまって実行の段階にまで行った。怒った農民たちが幹線道路を塞ぎ、それに学生、労働者が支持して国中大変なことになってしまって、政府は往生し、この法の施行を2年止めた。もう1つはグアテマラ。ブラジルでのワールドカップ中のどさくさに国会で承認、しかし、全国的な反対運動が取り組まれ、憲法裁判所がこの法律に違憲判決、国会はこの法を撤回した。しかし、ペルー、チリ、メキシコのTPP参加国でもしこうした法律ができてしまうと他の国にも相当な圧力になることは確実だ。