CRISPR-Casによる「ゲノム編集」(遺伝子組み換えVer.2)は意図しない傷をDNA以外のゲノムに残し、遺伝子発現に影響を与え、それは世代に渡って継承され得ることが明らかに(1)。
「ゲノム編集」は意図しないDNAの破壊を生むことがあると指摘されるが、この研究が示すのはDNAそのものの破壊ではない。DNAの変化によらない遺伝子発現の変化に関わるもの、つまりエピジェネティックな変化であり、世代に渡って影響を与える可能性がある。
生命は遺伝子がすべてを決めるというわけでは必ずしもなく、遺伝子を発現させる調整機構が微妙な制御を行っている。遺伝子が変わらなくても作物も味が変わる。それは育て方が種子にも受け継がれる、それがエピジェネティックな機構である。
親の経験が子どもに受け継がれることがわかってきている。たとえば飢餓体験をした親の経験はDNAを変えることはないが、その経験はこのエピジェネティックな仕組みで子どもに受け継がれる。
「ゲノム編集」による遺伝機構のダメージにはこの発見が加わることで、さらに広範な領域に及ぶ可能性があることになる。CRISPR-Cas(CRISPR-Cas9だけでなく、CRISPR-Cas3, CRISPR-Cas12a, CRISPR-Cas12fなどいくつも出てきているのを総称)による「ゲノム編集」のゲノム機構に与えるリスクには以下のような分類があることになる。
・ オフターゲット遺伝子破壊の危険
CRISPRは特定の遺伝子配列を探す能力を持つが遺伝子配列は4つという要素で構成される単純なものであるため、似たところが出てくる。狙ったところではない遺伝子がそのために狙われて想定外の破壊が起きる可能性がある。
・ オンターゲット遺伝子変異の危険
狙い通りいったとしても、当該遺伝子を破壊した後、その後の修復は「ゲノム編集」は何もしない(塩基を挿入することもあるが)。そのためどう変異するかは生物任せ、運任せ、だからそこがどんな変異をするかコントロールできない。
・ エビジェネティックな機構の変化
今回、明らかになった機構の変化。
これ以外にも「ゲノム編集」時に挿入されるカリフラワー・モザイク・ウイルスや抗生物質耐性遺伝子などによって引き起こされる問題も存在する。
現在の遺伝子組み換え作物で起きているように耕作開始から20年以上も経って、その取り返しのつかない危険が明らかにされることは「ゲノム編集」の場合でも十分起こりうる。従来の育種で作られた品種が今なお大事にされるのに対して、これまで作られた遺伝子組み換え作物の中で、そのようなものは現れていない。それに膨大な研究資金を投資し、広大な地域の環境を破壊し、人びとの健康被害を起こしてから、あれはまずかった、と反省しても、まったく遅い、ということになる。
それにも関わらず、日本政府は「ゲノム編集」の普及を日本の農業振興策の柱として位置づけて税金をつぎ込み、バイオテク企業をバックアップしている(2)。今のところ、それを食い止めているのはEUやニュージーランドが規制する方針を示していることだが、それに対しても、現在、バイエルなどのバイオテク企業は高額な費用をつぎ込んで、政策をひっくり返すロビー活動を行っている(3)。そこで使われているであろう言葉はこうかもしれない。「日本や米国では政府が推進している。このままではあなたの国は置いていかれますよ。いいのですか?」。日本で反対の声を上げなければ、EUやニュージーランドの抵抗も突破され、世界は遺伝子操作天国になってしまうかもしれない。
だからこそ、日本でも「ゲノム編集」の食への適用に反対の声を上げていく必要があると思う。
(1) New GE unintentionally leaves traces in cells
https://www.testbiotech.org/en/news/new-ge-unintentionally-leaves-traces-cells
(2) 農林水産研究イノベーション戦略2020
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/200527.html
(3) Seed industries continue to push for deregulation of GMOs
https://www.eurovia.org/seed-industries-continue-to-push-for-deregulation-of-gmos/