このままでは日本の信頼性はどうなる? 「あきたこまちR」を「あきたこまち」と表示して販売する問題。どれだけの大きな問題なのか?
「あきたこまちR」は重イオンビーム放射線育種によってOsNramp5と名付けられた遺伝子の塩基を破壊された「コシヒカリ環1号」の遺伝子を受け継ぐ品種。人体に被害を及ぼすカドミウムをほとんど吸収しないが、同時に生物にとって不可欠な必須ミネラルであるマンガンも3分の1未満になる。
開発した農研機構や秋田県はマンガンは他の食品から得ればいいので、問題ない、というのだけど、問題なのは当の「あきたこまちR」の生育に大きな影響を与えてしまう可能性が高いということ。育てる水田がマンガンに富んだ環境であればなんとかなるものの、低マンガンの環境では菌病であるごま葉枯れ病にやられやすくなることは農研機構も認めている。農薬使用が増える可能性が高い。
だが、問題はそれどころではない。同様の遺伝子の塩基を欠損した品種はもしそうした環境で出穂期に高温が続くと、収穫が2〜3割下がる可能性を指摘する研究がNatureにも掲載された¹。なぜなら、マンガンは光合成で活躍するミネラルなので、足りなくなると光合成に障がいが発生し、収穫が減ってしまい、品質も大幅に低下する可能性がある。これが起きたら農家にとっては大打撃になる。
この問題は農研機構も認識しているはずで、だからこそ、「コシヒカリ環1号」を開発した後に、マンガンの吸収を高める新品種の開発に着手して、一定成功している²。それならば、この欠陥がある「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」ではなく、この新たに開発した品種を採用すればいいはずでは、と思うかもしれないが、その動きはない。なぜかというと、それを世に出すためには「ゲノム編集」稲となってしまうからだろう。さすがに「ゲノム編集」米に100%変えるという提案は市場から拒絶される。ならば重イオンビーム放射線育種ならいいかというと、原理的には五十歩百歩。本当なら案の段階で踏みとどまるべきもの。同じカドミウム汚染問題を抱える中国の方がむしろ研究は進んでいるが、その中国は慎重だ。
しかも、この変異させた遺伝子は潜性(劣性)であるため、維持するためには他の稲と交雑すると性質が発現しなくなってしまうので、同じ稲との交雑を繰り返さざるを得ず、近交弱勢によって生命力が弱まってしまう可能性が指摘されている。
問題だらけの品種なのに、それに100%転換するというのはどう考えても愚策としかいいようがない。
どう考えても、この「あきたこまちR」というお米は「あきたこまち」とは似て非なるものであって、同じものではない。同じものではないにも関わらず、同じに表示できてしまうというのはあまりに虚偽表示だ。
この表示が問題なのは消費者が選べなくなるからだけではない。秋田県にも少なからぬ農家の方たちが従来の「あきたこまち」を栽培しようという意欲を持っている。でも、表示が同じにされてしまえば、その販売が困難にされてしまう。
異なる品種を同じ品種群として扱うということはこれまでもされてきた。たとえば「みつひかり2003」「みつひかり2005」を同じ「みつひかり」として、あるいは「コシヒカリBL」を「コシヒカリ」として売られてきた。でも、どの場合も多くの問題が指摘される。そもそもこの制度自身の是非を一度考えるべきなのではないかとも思うが、この「あきたこまちR」を「あきたこまち」といっしょにするというのはあまりにあまりの暴挙と言わざるを得ない。
消費者庁にこのような虚偽の表示をやめることを求める要請書を提出します。
「あきたこまちR」を「あきたこまち」と表示する問題に対する消費者庁への要請書
https://okseed.jp/radiation/entry-236.html
(1) 「あきたこまちR」は暑さで20〜30%減収になる?
https://project.inyaku.net/archives/10164
(2) イネのカドミウム・マンガン輸送体タンパク質 働きを調節するアミノ酸部位を特定 農研機構
https://www.jacom.or.jp/saibai/news/2022/12/221206-63285.php