世界で反対が広がる遺伝子組み換え小麦(HB4)とは何か?

 遺伝子組み換え小麦(HB4)に対する反対活動が広がっている。欧米人の主食である小麦に対する遺伝子組み換えは強い抵抗に遭ってきた。もっともこれまで遺伝子組み換え企業の主たるターゲットになった大豆やトウモロコシは米国人にとっては家畜の餌かもしれないが、地域によっては主食である。フィリピン裁判所が止めたゴールデンライスは遺伝子組み換えのお米。
 どちらも人が直接食べるものであり、その健康への影響の懸念は大きい。もっともこれらの農作物の懸念は健康面だけに留まらない。なぜなのか、一言。
 
 この遺伝子組み換え小麦は干ばつ耐性と除草剤グルホシネート(バスタ)耐性を持っているとされる。しかし、この干ばつ耐性はどんなものかというと、干ばつの中で水分をうまく調整して、干ばつに耐える、というものではまったくないのだ。干ばつを検知する小麦の機能を麻痺させてしまう。植物は干ばつの状況の中で身を守るために防御の姿勢を強める。成長を止め、生存を図る。でもそれをしなくなるので、干ばつの中でも成長する、これが干ばつ耐性だというのだ¹。
 
 でも、干ばつに強いのではなく、干ばつの条件になっても無理矢理成長を続けようとして、ひどい干ばつになれば全滅する、というのがこの品種ということになるのではないか? それを干ばつ耐性といって宣伝するのって、羊頭狗肉にもならないではないか?
 
 実際にこの遺伝子組み換え小麦を栽培したら全国平均で17%も収穫が減ったという。17%の収穫減はちょっと受け入れしがたい数値だろう。この話を聞いた時、「あぁ、これでこの遺伝子組み換え小麦は終わったね」と思った。でも甘かった。アルゼンチン系多国籍企業Bioceres社はブラジルなどの隣国ばかりではなく、米国、オーストラリアやインドネシアでも次々と承認を勝ち取り、増産に向かっている。でも、17%も収穫が減るのになぜ? これが独占企業にはできるのだ。タネの選択の余地がなくなったら、農家はそれを栽培せざるをえなくなる。
 しかも強い発がん性ゆえにEUでは禁止されているグルホシネート耐性なので、当然、バスタ系農薬が大量に使われることが想定される。
 
 フィリピンでは遺伝子組み換えの稲であるゴールデンライスの栽培が始まり、政府は2028年までに50万ヘクタールでの栽培を目標にすると22年に述べた⁴。しかし、このゴールデンライスも収穫は従来の稲よりも大幅に劣り、3割以上減るケースが多く、50万ヘクタールで栽培すれば、75万トン、米の生産は減ることが想定される。これは400万人以上を1年養える分がなくなることになる。
 
 同じようなことが日本でも今後、起きる可能性がある。重イオンビーム放射線育種米は出穂期の高温と低マンガンという条件の下では大幅に収穫減になる可能性が指摘されている。今後は穂が出る8月は高温が常態化するだろうから、水田のマンガンが低ければ大幅減収は避けられなくなる。そんな欠陥品種は避ければいいと思うかもしれないけど、それしかタネが供給されなければ農家は選ぶ余地がない。ごま葉枯れ病も発生しやすくなり、殺菌剤の使用も増える可能性が指摘される。
 
 種子の決定権、種子主権がどれだけ大切か、選択できなくなってからでは遅い。このHB4に対してはさまざまな世界の種子主権を求める100を超える市民団体が共同声明に署名して、国連の人権特別報告者に介入を求めている²。フィリピンのゴールデンライスに対してもフィリピンの裁判所は許可取り消しを命じ、大惨事を未然に防いだ³。
 
 さて、日本ではどうすべきだろうか?
 
(1) La mentira productiva del trigo transgénico HB4
https://agenciatierraviva.com.ar/la-mentira-productiva-del-trigo-transgenico-hb4/

 実際に遺伝子組み換えで干ばつ耐性のような複雑な機能を実現することは難しい。というのも干ばつに対処するには生命のさまざまな機能を調整しなければならず、多数の遺伝子の発現を調整しなければ実現不可能であり、そんな調整技術を現在の遺伝子操作でやることは到底できない。現在、実装できている遺伝子組み換えというのは特定の毒素を作り出す、あるいは特定の機能を麻痺させるなどの単純なものに過ぎない。これまでも干ばつ耐性や高温耐性を目標にする遺伝子組み換え品種の開発が行われたが従来の品種改良の方がはるかに優秀な成績を残し、商業的に遺伝子組み換えによって成功した例は知られていない。

(2) No to GM wheat!
https://acbio.org.za/gm-biosafety/no-to-gm-wheat/

(3) 5月2日の投稿

フィリピン控訴裁判所:遺伝子組み換えのゴールデンライスとBtナスの差し止め判決

(4) The Philippines Dodged A Hidden Bullet With Its Ruling Against Golden Rice – Here’s Why

The Philippines Dodged A Hidden Bullet With Its Ruling Against Golden Rice – Here’s Why 

イメージは国連の人権特別報告者の介入を求める市民団体共同署名をよびかけた市民団体のロゴ 注の(2)参照

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