遺伝子組み換えメジャーの「ゲノム編集」トウモロコシが届け出

 3月20日、米国コルテバ・アグリサイエンス社の「ゲノム編集」トウモロコシが農水省、厚労省に届け出された(1)。コルテバとはモンサント(現バイエル)のライバル企業の米国の2つの遺伝子組み換え企業ダウ・ケミカルとデュポンが合併したものだ。いよいよ4大遺伝子組み換え企業が「ゲノム編集」作物を市場に出すということで局面が変わっていく可能性がある。もっとも現在流通している「ゲノム編集」食品は日本企業が作る3品種に限られている。この「ゲノム編集」トウモロコシの市場流通はまだ時期未定とのこと。
 「ゲノム編集」トマトであればそのトマトを不売にすることで一定止められる。でも、トウモロコシはコーンスターチなどに加工され、さまざまな加工食品に入ってしまう。お菓子やお酢、甘味料、粉ミルクなどその範囲はあまりに広い。となると、不売しなければならない範囲はあまりに広がってしまう。さっそく日本消費者連盟と遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンが日本のコーンスターチメーカーに公開質問状を出している(2)。注目したい。
 
 日本政府は米国の指示通り、「ゲノム編集」生物に関する申請制度をなくし、表示もせずに流通可能とした。その影響は多大である。
 これまでの遺伝子組み換え生物(たとえば大豆)の場合は以下のような申請・承認プロセスがあった。

  • 開放圃場での栽培実験申請→審査→パブリックコメント
  • 栽培実験を元にした流通など申請→審査→パブリックコメント

  
 市民はこの最初の実験申請があった段階で情報を受け取ることができる。もっとも多くのケースでベルトコンベアとも言えるくらい厳しい審査はされた試しがないのだが、少なくとも栽培実験などを考えると申請があってから1年以上は流通するまでに時間があった。市民社会はその間に対策も考えることはできるし、2度のパブリックコメントで意見表明の機会もある。
 
 でも「ゲノム編集」生物の場合はそうはいかない。届け出まで情報公開はされない。その間に開発企業と農水省・厚労省は「相談」しているはずなのだが、その情報はいっさいブラックボックスの中で公開されない。省庁の中での検討はまったく情報が公開されない。今回のコルテバのケースも、3月7日に検討会が開かれた事実は公表されていたが、コルテバの名前も品種に関する情報も届け出まで伏せられた。届け出と同時に流通が可能になってしまうので、対応を考える猶予も与えられない。
 
 しかも、従来の遺伝子組み換え生物の場合は改変した遺伝子の情報やその検出方法まで情報提供が求められているが、「ゲノム編集」生物の場合はそれが免除されてしまっている。だからほんのすかすかの7ページから10数ページの情報しか提供されない。政府は「ゲノム編集」生物は検出できないとしているが、詳細な情報が公開されれば検出方法は作れると科学者たちは述べている。でも提供が義務付けられていないのだ。
 
 そしてパブリックコメントは一切なし。市民がものを言う機会は一切奪われた。
 
 “「ゲノム編集」は遺伝子組み換えでないから問題ない”? いやいや、「ゲノム編集」は従来の遺伝子組み換えと同様の遺伝子操作技術であり、さらに従来の遺伝子組み換えになかった問題が存在しうる。「ゲノム編集」による遺伝子破壊によって遺伝子の大量欠損や染色体破砕などの問題が生み出されたり、想定しない変異が生まれる可能性が指摘されている。つまり、従来の遺伝子組み換え食品では起きなかった問題が「ゲノム編集」食品で引き起こされる可能性がすでに指摘されているのだ。
 
 それにも関わらず、無規制で流通させる。これは国が自ら、規制する権限を放棄してしまったことを意味する。問題が発生した場合、もう取り返しがつかない。規制の対象でないのだから、その責任は誰も負わない。原発事故での電力会社と同様の対応が取られるだろう。つまり放出された放射性物質は電力会社も国も責任取らないのと同様、「ゲノム編集」生物による被害も責任取られることはない。
 
 政府が企業に乗っ取られる時代になり、企業が決めたルールで政府が動く。でも企業は責任を取らないし、政府も責任を取る権限も情報も持っていない。この究極の無責任社会をどう変えるか、問われている。まずは「ゲノム編集」原料を食品加工企業に使わせないこと、そして消費者が一連の問題を知ることを徹底していくことが必要だ。

(1) 農水省:情報提供書が提出された農林水産物の一覧
https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/tetuduki/nbt_tetuzuki.html
厚労省:ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領に基づき届出された食品及び添加物一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/bio/genomed/newpage_00010.html
ゲノム編集で作る多収のモチモチ食感トウモロコシ ワキシーコーン
https://bio-sta.jp/development/1708/

このワキシーコーンは2019年内に届け出されると報道されていた。それがなぜ3年以上遅れたのか? ちなみにこのコルテバのトウモロコシを日本で販売するのがパイオニアエコサイエンス社であるが、この企業が「ゲノム編集」トマトの販売を手がけている。コルテバに買収されることになったパイオニア社の元子会社である。つまり「ゲノム編集」トマトで露払いさせておいて、本家の商品がこの度出てきた、ということだろうか?
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50282440X20C19A9EAF000/

(2) 日本消費者連盟:【質問状】コーンスターチメーカー宛てゲノム編集トウモロコシに関する公開質問状(2023年3月31日)

【質問状】ゲノム編集トウモロコシに関する公開質問状・コーンスターチメーカー宛(2023年3月31日)

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