農水省と国交省が力を入れている下水汚泥の肥料利用、懸念が募る。化学肥料の原料が高騰し、入手困難になるということで下水汚泥の利用が進められつつある。安全が確保された糞尿はリン酸や窒素に富み、利用するのは江戸時代から行われている。だけど、江戸時代にない危険な物質に満ちた現在、果たして安全は確保されているか、疑問に感じざるをえない。
広域の下水汚泥にはさまざまな危険物質が入り込んでいる可能性がある。カドミウムやヒ素といった重金属や抗生物質、さらには放射性物質やさまざまな病原菌やウイルスも。果たして、十全な準備の上に、この下水汚泥肥料の利用促進が行われているのであればこう何度も書くことはない。でも、十全どころかまったくまっとうな準備なしに利用拡大を図っているとしか思えない(1)。
まず第一。日本政府がチェックしているのはわずか6種類の重金属と放射性物質(2)。放射性物質はチェックされるというけれども、下水汚泥の原料にできる基準値はなんと400ベクレル/kgで肥料の中には200ベクレルまで許されるとのこと。以前は100ベクレル越えたら放射性物質として隔離管理が必要なのではなかったか? この基準は原発事故後の2011年に設けられた。それから10年以上、引き下げられていない。
重金属に関しても基準値があるから大丈夫とは思えない。というのも重金属はそれ以上分解されない元素なので、半減期も存在しないし、生物濃縮される可能性もある。だから毎年使い続けても汚染がひどくならないという保証があるかというと疑問である。基準値は得てして確実な安全が確認されたということで決められるのではなく、多くの場合、この値であれば実現可能だろう、というレベルに設定されることが多い(放射性物質の基準値をみればそれがよくわかる)。土壌の中に留まりやすさにも違いがあるだろうが、流されにくいところであれば年々の使用で汚染がひどくなる可能性は十分あるだろう。しかし、基準値が設定されることで、「基準値より低いから安全」ということにされてしまう。その「安全」はむしろ「危険」を孕んでいると思う。
そして、永遠の化学物質と言われるPFASはノーチェック。実際に佐賀県の下水汚泥肥料からは沖縄県の下水汚泥肥料のなんと70倍を超えるPFOAが検出されたという(3)。なぜ、佐賀県の下水汚泥肥料から高濃度のPFOAが検出されたのかわからないが、工場や軍事基地からPFAS汚染が広がっていることは大きな問題になっている。地域によって差が大きいが、PFASのような物質が多く含まれている下水汚泥肥料があったとしても、現在はモニターもされていないから、知らぬうちに農地をPFAS汚染してしまう。すでに米国では800万ヘクタール以上がPFASに汚染され、メイン州は下水汚泥肥料の使用を昨年禁止した。
さすがにノーチェックで利用促進させるのはどんなものか、と農水省に聞いたら、農水省の官僚からは規制ありきではない、という反応だった。問題が起きたら規制します、とのこと。でも問題起きたらもう終わりなのだ。残念ながら重金属やPFAS、放射性物質に汚染された農地を元に戻すことは現在の技術ではきわめて困難である。だから汚染させてはいけないのに、汚染させないという原則が何もない。
汚染してしまった農地をどうするのか? その責任は取らせる。
誰が責任取るのか? 肥料を売った人。
責任はどうやって取るのか、売った肥料代を返金する(わずかな金額)。
汚染された農地はもう戻らない。
そしてこの下水汚泥肥料の利用拡大のための検討会はすべて非公開(4)。その議事録の公開を求めたが、企業秘密を守るとかの理由で公開されない。これだけ公益に関わり、税金がかかっていることなのに、なぜ情報開示されないのか、それもとてもおかしい。マスコミも宣伝はするけれども、農水省や国交省に切り込むマスメディアは見たことがない。
本当に日本はトンデモ国家になってきているとしかいいようがない。このままでいいのだろうか?
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(1) 必要な物質だけを下水汚泥から純粋に抽出する技術があるのであればその利用はありうると思う。リン抽出で他の物質が入り込まない技術が確定していて、検査でも有害物質のチェックが示されているのであれば、それに反対するものではない。リン抽出がどれほどの純度なのか、知らないけれども、現在問題にしているのはそうやって抽出する下水汚泥肥料ではなく、下水汚泥をコンポストにしたり乾燥させて使うもの。これは危険な物質がそのまま残る可能性が高い。
(2) 汚泥肥料中の重金属管理手引書
https://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/pdf/110801_tsuchi_tokekomi.pdf
放射性セシウムを含む飼料の暫定許容値の見直しについて(2011年)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/shizai_2.html
下水汚泥の緑農地への利用
http://jser.gr.jp/kaiin/JSER_BOOK/1990/11-434.pdf
ベルギーでは1990年時点ですでに12の重金属の基準値を設けている。下水道のあり方そのものが問われるべきなのかもしれない。
(3) 琉球新報:PFAS、肥料からも検出 実際に購入して調べてみた 「再利用」進めても大丈夫?(上)
https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-2370523.html
琉球新報:農作物への影響は? 沖縄より高い値の県も米国で進む規制とは (下)
https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-2371387.html
(4) 下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けた官民検討会
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/221018_1.html
画像は農水省の資料
汚染のモニターは自治体の責任なんですね。自治体のみなさん、大丈夫でしょうか?
地方議会の方たちにぜひ関心持ってもらいたいです。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/221018_1-4.pdf