世界中で気候変動による大きな災害が頻発している。日本では「数十年に一度の」という表現が繰り返されるが、今起きているのは過去にあったことの繰り返しではなく、過去とは異なる事態と言わざるをえない。未曾有の事態と向き合わなければならなくなっているといわざるをえないはずだ。
日本で気候変動の問題に取り組む運動は温室効果ガスの排出につながる石炭火力などを問題にする。それは確かに重要だ。そうしたガスの排出は可能な限り、削減しなければならない。それが不可欠であることは疑いない。でも、それだけでは半分の問題しか取り組めたことにならない。そして、たとえ温室効果ガスの排出を削減できたとしても、排出されてしまった温室効果ガスは気候変動を危険にし続ける。
実は気候変動はその半分は食のセクターから引き起こされている。つまり食が原因で引き起こされている。食の問題を取り上げない限り、その気候変動問題の取り組みは不十分なものとならざるをえない。でも食は気候変動の原因となっているだけにとどまらず、その気候変動を反転させ、危険を脱する上での重要なきっかけとなりえる。
炭素の7割の貯蔵庫は土壌。しかし、化学肥料や農薬の大量投入の工業型農業の進展により、土壌の炭素が失われていく。土壌が劣化し、炭素が大気中に放出されていく。化学肥料、農薬、土壌が気候変動の原因を作り出す。
そして、食のセクターで温室効果ガスを最も排出しているのは畜産業であり、全体の15%にも及ぶ。もっとも畜産業すべてが問題なのではなく、家畜を工場のように詰め込むファクトリーファーミング(工場型畜産)の問題が大きい。たとえば環境に配慮された牧場では牧草が吸収する二酸化炭素の効果があり、牛が出すメタンガスを相殺できる。
ファクトリーファーミングを規制しない限り、パリ協定を守ったとしても気候変動による破局は不可避だと国際NGOのGrainは警告する(下記リンク参照)。
抗生物質耐性菌など健康被害を作り出すファクトリーファーミングによる食肉生産はその危険もあって停滞気味であったが、自由貿易協定が進む中で、再び息を吹き返しつつある。本来、規制しなければ破局的な事態となってしまうものが規制緩和されるこの狂気。そのもとでまともな畜産農家が廃業を余儀なくされようとしている。
しかし、この悪循環を逆転させることは可能だ。つまり、ファクトリーファーミングを規制し、化学肥料や農薬の使用を減らし、現在メタンガスを排出している土壌を元のように炭素の貯蔵庫としての機能を回復させてやることができれば、空中に大量に放出された二酸化炭素は再び土の中に戻すことができる。つまり、食は気候変動の解決策でもあるということだ。
もっとも、だからといって、土壌は炭素の貯蔵庫に留まらない。炭素だけ取り出した技術的な解決が可能であるとしたら大きな過ちに陥る。気候変動を口実に広大な森林を企業の支配下に置こうとする試みがある。REDD+のようなCO2排出権メカニズムがその例だ。
食が気候変動を引き起こす最大の原因はますます食のシステムが小規模家族農家を追い出し、多国籍企業の支配下に置かれ、元の自然なシステムから剥がれてしまったことに根本的な原因が存在する。REDD+が森林地域に住む人びとの生活をさらに奪い、本当の問題解決とならなっていないように、炭素の吸着だけを取り出すアプローチも同じ問題に陥ることになりかねない。
気候変動の真の解決策のためには小規模家族農業によるアグロエコロジーを世界的に進めることが不可欠であり、そのためには土地の分配に基づく政治の確立が不可欠な課題となる。
気候変動問題の解決には気候変動における食のシステムの問題をどのように解決するかを考えることが不可欠なのだ。そしてそれはグローバルな民主主義の確立と不可分の課題でもある。
【参考資料】
Fertilizer is fouling the air in California: Study
化学肥料によってカリフォルニアの空気が汚染され、カリフォルニア州の窒素酸化物の41%を作り出している。窒素酸化物は強力な温暖化効果ガス
Grain: Big meat and dairy’s supersized climate footprint
大規模畜産はパリ協定による気候変動の解決を不可能にする。
FAO: Soils help to combat and adapt to climate change
インフォグラフィックがわかりやすい
The Food Industry Can Address Climate Change through Healthy Soil
Our land is worth more than carbon
炭素だけでなく、食のシステム全体を変えていくことが本当の解決につながる。