民間企業のために廃止した種子法、民間企業は動かず

 台風によって広域で深刻な水害が起きた。多くの水田が洪水にまみれた。収穫が終わる前であれば来年の種籾が流されてしまったかもしれない。

 種子法が廃止されて1年半が経つ。農水省は2017年11月に次官名で通知を出し、都道府県は民間企業が参入が進むまでは種子事業を継続し、民間企業に自治体が持つ知見を移譲せよ、としている。それはどれくらい進んだのか?

 米の事業を担う民間企業の数は多くない。住友化学、三井化学、日本モンサントの品種が占める割合が大きい。それではこの間、どれくらいこれらの生産量が増えたのか?
 住友化学は米の生産量を5年で約55倍にする計画を2015年に立てた。2020年までに6万トンの米を作り、100億円を稼ぐというものだ。しかし、2019年の投資家向けの資料ではこれが1年遅れの2021年に50億円に下方修正されている。1年遅れて、さらに目標が半分になるというのではすさまじい下方修正だろう。2017年には「コメ事業の推進」が住友化学の5つのアクションプランに入っていた。でも2019年にはそれはもう消えている。
 それでは三井化学や日本モンサントはどうなのか? 農水省の検査量で見る限り、ほとんど増えていない。昨年の米ではこの3社で占める割合(水稲米の検査量で比較)はわずか0.29%。ほとんど存在感がない。一方、コシヒカリが占める割合は31.05%、比較にならない。増えているのは実質的に住友化学だけ2016年と2018年を比べると6倍近く増えているが、それでもシェアは0.17%に留まり、市場に存在感を示すものにはなっていない。日本モンサントは「とねのめぐみ」を開発しながらその販売権は株式会社ふるさとかわちに譲渡してしまっている。そもそも彼らは日本の種籾を供給する主体になりそうにない。にも関わらず、自治体は種子行政を後退させているところが少なくない。今なお、99%以上は公共品種が占めているにも関わらずそれを支える法制度がなくなってしまっている。
 公的種子事業の民間企業への移行については、もし、そのようなことが起きればどんな弊害が起きるか、さまざまに議論されてきた。しかし、元よりあまりに現実を無視した法廃止であったことがはっきりと数字に現れている。99%以上を支える制度が法的裏付けを欠いたままになっている。いったい、政府はこの状態を何年続けるつもりなのか? 種子法廃止は世紀の失政だろう。
 
 農水省は種子法がなくなっても、種子が足りなくなることはありえないと、危機感を見せないが、台風19号のような広域を襲う台風は今後もやってくることを想定せざるをえない現状を考えれば、種籾のための水田が広域にわたって壊滅する事態も想定する必要がある。その際、種籾を失った地域を支援できるのは他の地方自治体になるだろうが、どうやって連携するのか。提携しようにも種子事業を後退させてしまった自治体では連携しようもなくなる。個々の自治体まかせの現状は放置すべきではないだろう。
 民間企業は儲からなければ事業撤退もありうる。だけど、種子は儲かるかどうかで作るかどうかを決めるのではなく、人びとが生きるために必ず作らなければならないものである。
 気候破壊による被害が増える現在こそ、早急に種子法を復活して対策を立てるべきだ。

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