アフリカと種子主権

 気候変動による高温と乾燥が東アフリカを襲っている。アフリカ南東部のマラウィでは国の半分近い800万人が飢餓に直面しようとしている。しかし、この気候変動の危機よりももっと彼らを脅かそうとしているのが政府の種苗政策である(1)。

 マラウィの多くの農家たちは在来の種子で高温と乾燥に強い多様な作物を作っている。しかし、マラウィ政府は補助金を出して、ハイブリッドのトウモロコシ栽培促進政策を進めようとしている。その背後にいるのは多国籍種子企業である。G7の政府やビル・ゲイツ財団などがアフリカ諸国に多国籍企業の種子と化学肥料・農薬の3点セットを押しつける政策を強いている。ハイブリッドのトウモロコシが始まった後は遺伝子組み換えトウモロコシ、「ゲノム編集」トウモロコシと続いていくことだろう。

 しかし、こうしたトウモロコシはアフリカの伝統的な作物と異なり、水を多く必要とする。種子も化学肥料も農薬も購入しなければならない。自給した農業資源を使う生存農業を多くの農家が行うアフリカでそうした農業の押しつけは農家の離農、難民、飢餓を深刻にすることは間違いないだろう。長期的には絶対に維持できない政策が多国籍企業の短期の利益のために強要される。

 マラウィだけではない。ガーナでは種苗法案が出てきたが、これもまたUPOV1991年条約をベースとしており、農民の自家採種や種子交換・販売を禁止しようというもの(2)。ガーナではこの種苗法案が成立すれば遺伝子組み換え農業のスタートになるかもしれない。こうした動きは今、アフリカの各国で起こされている。

 G7、多国籍企業の押しつける農業に対して、アフリカの気候、土壌にあった種子を、さまざまな知見を総合して生態系の力を活用することで育てるアグロエコロジー運動がアフリカで力を発揮している。国連もそうした農業こそが解決策だとするが、アフリカ諸国政府は先進諸国の圧力の下、逆方向を強いている。しかし、その逆方向政策がもたらすのは飢餓や難民の拡大、さらには気候・生態系破壊。決定的な分岐路に私たちはいる。

 今、アフリカや世界で「種子主権(Seed Sovereignty)」という言葉が重要になりつつある。つまり種子を奪われたら、自立して生きる権利を奪われることに等しいからだ。この言葉、「種子主権」、日本でもじっくり咀嚼する必要があるのではないだろうか? 種子の主権がなければ人権もない、と世界で叫ばれていることは、この日本でこそ生まれつつある問題であるといわざるをえないのだから。

(1) Seed Sovereignty and Climate Adaptation in Malawi

(2) Ghana’s Plant Breeders Bill Lacks Legitimacy! It Must Be Revised!

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