新型コロナウイルスは南の国々にも蔓延し始めている。ワクチンも治療法も確立していない今回のウイルス、肺炎が深刻化して命を落とすケースが世界各国で報告されているが、ドイツなど人工呼吸器の設備が整っているところでは致死率がとても低い。一方、南の国の貧しい地方ではそうした機器がほとんど得られず、そうした地域で蔓延すればとんでもない数の犠牲者が出てしまう可能性がある。
新型コロナウイルスはアマゾンにも到達した(1)。ブラジルの6割の市町村には人工呼吸器が公立病院には存在しないという(2)。その地域では肺炎に苦しむ患者を助けることがきわめて難しい状況にある。
これまで多くのラテンアメリカの先住民族がもちこまれたウイルスによって壊滅的なダメージを受けてきた。そしてブラジル大統領は先住民族のコミュニティを守る憲法を公然と無視する政策を進めつつある。特別の許可がなければ入れない先住民族の土地への侵入事件、先住民族への暴行殺人事件、放火による森林破壊など起きている。医療がほとんど期待できない地域にウイルスが入り込んでしまえば、村ごと死滅しかねない(3)。本来ならばこの時期はブラジル中の先住民族の代表が首都のブラジリアに集まり、先住民族の権利を守るための活動が行われるのだが、それもこのウイルスのために中止された。
アマゾンの森林を守る先住民族がいなくなればアマゾンの森林はさらに破壊が進むだろう。新型コロナウイルスもエボラウイルスも自然破壊と共に動物とは共生していたウイルスが世界に放たれてしまったものと考えられるが、アマゾン森林がさらに破壊されれば気候変動に加え、さらなるウイルスの脅威に人類は脅かされるかもしれない。
しかし極右大統領は多国籍企業の支持を得て、アマゾンの先住民族の土地での鉱山開発、農地開発を進めようとしている(4)。日本の税金を含むお金が関わる可能性は十分ある。開発至上主義から環境と命の保護に向け、大きな政策転換が必要となっている。
フィリピンではマニラのあるルソン島が封じ込めの対象となり、医療物資の不足による悲鳴があがり、寄付を求めている(5)。とりわけ町から離れた農漁村での支援が求められている(6)。一方で、活動家の暗殺も続いている(7)。インドでは1億7600万人は極度の貧困状態に置かれているが、その人びとを直撃すれば彼らは逃れるすべがない(8)。
一方、南の国々だけでなく、いわゆる先進国でも貧富の格差は深刻な状態である。米国でも多くの移住労働者や非正規労働者たちは医療支援を受けられず、社会保障もないため、体調不良を押してでも働きに行かざるをえない。これがさらなるウイルスの蔓延をもたらすだろう(9)。病院の労働者たちの状況も極めて厳しい状況に追い詰められつつある(10)。こんな社会情勢の中で、トランプ政権は金融資本や多国籍企業との関係者との調整にその勢力の多くを使う一方、貧困者への食料支援プログラムであるフードスタンプから70万人を締め出す方向を打ち出している(10)。フードバンクも支えるボランティアが集まらない(11)。
このような中で、とりわけ気になるのが世界の食の状況である。
米国でも移民労働者たちが窮地に追い込まれ、農場の稼働が困難になるだけでなく、家族農家もファーマーズマーケットの閉鎖によって収入を断たれて、生産継続が困難になりつつある(12)。中国でも今、多くの地方で作物の植え付けが始まる時期となっているが、この混乱の中、植え付け作業がなかなか進まない。国際市場に大混乱が生まれる可能性は十分ある。
今回の新型コロナウイルスを生み出したのは、工業的な農業そのものだ、と『Big Farms Make Big Flu(大農場が大きなインフルエンザを作り出した)』の著者Rob Wallaceはこうした背景に多国籍企業による食のシステム、特にファクトリーファーミングがあることを指摘する。しかし、メディアはその連関を切り離して、個別の問題にしてしまうと批判する(13)。
またバンダナ・シバも、工業的農業が自然と人びとの免疫を破壊してきたこと、そしてその解決策はこの双方を回復するアグロエコロジー以外ありえないと強調する(14)。
この新型コロナウイルスは世界の多くの産業に破綻をもたらすのかもしれない。英国のセラフィールド核再処理工場で1000人の労働者が隔離されている状態であるという恐ろしいニュースも飛び込んでくる(15)。
『ショックドクトリン』の著者ナオミ・クラインは「コロナウイルス資本主義ーどのようにそれを打ち倒すか」というビデオで、電撃的なコロナウイルスの蔓延のショックの中、次から次へと富を独占する1%未満の特権者を優遇する動きが進みつつあることに警鐘をならす。しかし、一方で彼女はこのような危機には以前には不可能と思われた革新的なことが可能になることを強調する(16)。
つまり、この世界の破綻に対して以前であれば過激すぎて実現など不可能と思われた政策が唯一の有効策として浮上してくる。たとえば、貧困層への医療。これが実現できない限り、ウイルスの蔓延は防げない。そして、それがなければ食の生産すらままらない。社会が回らない。だからこそ、貧困者への医療の必要が誰もがわかる状況になっている。「誰一人取り残さない政策」と言われても関心を持たなかった富裕層もそれへの理解を始めている。新自由主義的政策はもはや機能しなくなる。大きく方向を変える時期なのだ。
実はこれはすでに経験済みのことである。それは1929年の世界大恐慌。この時、米国は農家の生産を全面的に保障するニューディール政策を採用し、この危機から立ち直った。このコロナウイルス危機の中、生態系を破壊してきた古い産業を捨て、環境と命を守れるグリーンな産業を支援する大きな計画、グリーン・ニューディール政策が、今、多くの支持を集めつつある。
個々に切り離された問題にされ、ばらばらにされていれば私たちはあっという間に、ごく一部の金融資本の利益のために多大な犠牲をこれから何十年にも渡って払い続けなければならなくなるだろう。でも、今、ここで大きな政策転換を主張し、その支持を得て、大きな変革を遂げることができる時期にいる。今、ここで、ばらばらの問題、点と点をつなげ、ばらばらの人びとを1つの政策に結びつけ、その実現を図っていくことができれば変えることは今だからできる。
環境や命を危険にさらす、ごく少数の多国籍企業の利益だけを追う政策ではなく、環境や命を守り、雇用と社会を守る新しい政策を求めていく時が来ている。
もはや、覚悟を決めた方がいい。新型コロナウイルス前と後では世界はまるっきり変わるのだ。延長線上でなんとかなるという発想は捨てて、この大惨事の中で、まずは生き残ろう。利益を貪る多国籍企業の弱肉強食の世界から人びとの命と環境を守るものに世界の原理原則を大きく変える時がすぐそこに来ているはずだ。
支援組織の声明:Comunicado do Cimi acerca da pandemia do coronavírus (Covid-19)
(2) Coronavírus: 60% das cidades não têm respiradores para enfrentar pandemia
(3) Médico sanitarista diz que doenças respiratórias, como coronavírus, são vilões do genocídio indígena
(4) Mesmo com pandemia, governo Bolsonaro vai ao Canadá convidar mineradoras estrangeiras para explorar novas reservas no Brasil
ブラジル・ボルソナロ政権による先住民族絶滅政策を止めるためのオンライン署名:Stop Brazil’s Genocide
(5) フィリピンから支援要請:PLEASE DONATE/RT| Philippines has just entered an enhanced community lockdown spanning the whole of Luzon.
(6) On The COVID-19 Crisis And The People’s Right To Food, Health, Livelihood
(7) [Amid COVID-19 pandemic] Soldiers kill young cultural activist in Bohol
(8) Coronavirus is Going to Come Down Hard on India, Especially its Poor
(9) Lack of Paid Sick Leave Makes It Difficult for Many Workers to Comply with CDC Advice to Stay Home
(10) Health Care Workers on Front Lines of COVID-19 Outbreak Lack Key Protections
(11) https://twitter.com/CivilEats/status/1240646210601525248
(12) AS CORONAVIRUS SPREADS, FARMERS FEAR MARKET CLOSURES AND LOST INCOME
(13) Capitalist agriculture and Covid-19: A deadly combination
(14) ECOLOGICAL REFLECTIONS ON THE CORONA VIRUS
(15) Coronavirus: 1,000 Sellafield staff self-isolating amid pandemic
(16) Coronavirus Capitalism — and How to Beat It