昨日、種苗法改正に関して、登録品種10%だけが自家増殖できなくなるだけだから、全然問題ない、という言い方が本当に実態に即しているのか、ということで沖縄と大分で栽培されている品種を例に見てみました。
特に穀類、果樹、サトウキビなど地域を支える主力品種は登録品種がかなり多く、そうした作物を栽培している人には影響がありうることを示しました。
ここでは、登録品種ではない方の品種(農水省の呼ぶ一般品種)がどんなもので構成されているか、確認してみます。農水省は育成者が新品種として申請してきた品種を審査して、他にない新品種と認定すると、その育成者は種子で25年、果樹などの場合は30年、その独占販売権を手にします。その期間が過ぎた品種は登録品種からはずれ、一般品種の中に入っていきます。すべての新品種が登録品種になるかというと、たとえばコシヒカリやあきたこまちは品種登録されていません。それもこのカテゴリーに入れられています。また、古くからの在来種も登録品種にはならないとされているので、一般品種の中に数えられることになります。
種苗を育成する人は個人の育種家、地域の小さな種苗企業から多国籍企業にいたるまでの民間企業、農協、大学、国や都道府県など多岐にわたります。しかし、登録品種と一般品種、どちらも穀類やイモ、果樹、サトウキビなどをみますと、国や都道府県による公共機関による育成した品種がやはり割合が大きいことがわかります。
そして規制改革推進会議の意図は、この日本の農業の多くを占めている国や都道府県の公共品種を民間企業(多国籍企業)の民間品種へと転換させることでしょう。
そうなることの弊害としては、種苗価格の高騰、多様性の喪失、地域に合わない品種ばかりになるなどがまず考えられます。すぐにそうなるわけではないにせよ、時間をかけて、地域に合った多様な種苗が得にくくなる時代がやってこようとしている危惧があると思います。
それに対して、どう対抗すればいいのか? まず、この国や地方自治体による公共種苗事業を守る必要は大きいと思います。でも、それでは果たして、これまでと同じ公共種苗事業でいいか、というと、批判される方たちも少なくないでしょう。地域の在来種を排除してきた、農家の種苗を大事にしてきたとは言いがたい、と言う批判をお持ちの方もおられると思います。国による戦時統制を思い起こす方もおられるかもしれません。そしてその批判は否定できないと思います。しかし、一方で、公的種苗事業をなくして、民間企業、特に多国籍企業に握られるようになってしまえばインドで起きているようなさらに大きな危険に曝されることになると思います。今、もう一度、「公共」の意味を問い直す必要に迫られていると思います。公共による種苗事業はどうあるべきか、再検討が必要になると思います。
地域の種苗を提供してきたのは公的種苗事業以上にまず個々の育種家の方たちでしょうし、地域の種苗企業かもしれません。これまでの農業試験場だけで考えるのではなく、そうした人たちを含めて、地域で必要となる多様な種苗をどうしたら将来にもわたって確保していけるのか、そして農家がその種苗を使って、農業を発展させていくことができるか、ということを計画することだと思います。
作物ごとに事情も異なり、地域毎にもまた変わると思いますので、個々のケースでさまざまなステークホルダーたちとどんな関係を築いていけばいいのか、具体的に話し合い、いい施策を作っていくべきだと思います。
たとえばブドウの育種家の方たちが育種で食べていけない、という現状がある時に必要な施策は何なのでしょう? もちろん、農家が買って支えるのも一つかもしれません。しかし育種の負担を農家だけに負わすことが唯一の方策でしょうか? 国や地方自治体はすべきことはないでしょうか?
また、企業の中だけで育種するのではなく、地域の農家が参加して育種していけば、もっと効果的に小さな地域の企業が多様な種苗を育てていくこともありえるかもしれません。実際にオランダの企業では地域の農家を企業が指導して、農家に育種に参加してもらうケースが生まれていると聞きました。
さらに地方自治体、あるいは、農協や生協にもそうした関係を発展させることができるのではないか? そんな地域の連携ができれば、今、厳しい状況にある地方の農業を再生する道も開けていくのではと思います。
さて、最後に、問題です。もし種苗法がこのまま変えられてしまった場合、登録品種の自家増殖のためには許諾料を払う必要が出てきます。安いといっても許諾を得るのは手間もかかりますし、民間企業に移ってしまえばその費用は年々上がっていくでしょう。だから、地方自治体がその品種を守り続けること、さらに許諾を不要であると地方議会で決めてもらえれば、将来的にもその負担をなくすことができます。種子条例の後は種苗条例を作ればいい。
でも、たとえば、北海道や愛知県のような育種を自治体が積極的に行っているところではそこで使われている種苗の多くが自分の自治体で作っているものなので地方議会で決議すればそれで済みますが、神奈川県や大分県は自分のところで育種をあまりしておらず、他府県で作られたものが多くなっています。他府県含めて許諾いらない、と育種道県が決議してくれればいいですが、予算を考えると難しいかもしれない。でも、そうした農家は許諾料を払わなければならなくなるとすると、同じ農家で育種が活発な県とそうでない県で不平等が生まれてしまうことにもなりかねません。
たとえば与論島は沖縄に近く、もしかすると植えているサトウキビは沖縄県の品種を使っているかもしれません。でも行政区としては鹿児島県です。その場合、与論島の農家は沖縄県に払わなければならないとしたら、それだけで不平等が生まれてしまいます。
でも、もし、その予算が国から確保されているとしたら、果たして与論島の農家を沖縄県の種苗事業から排除することは合理的でしょうか? こんな場合はどうやって議論していけばいいのでしょう?
地域の育種家の支援、地域の種苗会社と農家との関係、公的品種の維持と在来種の活用、あれこれさまざまなケースを実態に即して議論していくことで最適な解決法が見つかると思います。地域の種苗の多様性を守る施策と地域の育種関係者と種苗を使う側の農家の施策の最適解はさまざまな多様なやりとりから生まれると思います。一律なルールではとても解決できないと思います。
その発展のためには種苗法改定が将来必要になる時は来るかもしれません。でも、今の種苗法改定案ではこれは実現できないだろうと思います。そうしたことは今の改定案では想定されていないからです。
今週からの種苗法改定審議入りの可能性は低いと聞きました。だからこの時間を使って、議論を深め、拡げたいと思います。この新型コロナウイルス蔓延のもとでは到底、国会でのきめの細かい議論は不可能であり、その審議入りには反対します。