国会が閉幕。戦争が続き、食料危機、気候危機、生物絶滅危機という多重危機が進行する中で、果たして国会はその抜本的な対策を立てたのだろうか? 「みどりの食料システム戦略」を打ち出した、というがもう色が薄れてしまっている印象なのは僕だけだろうか? 今、農業資材価格が沸騰している。特に慣行農業を続ける少なからぬ農家が離農も検討せざるをえない、日本の食の危機が目の前にある。果たして国会はその十分な対応を検討したのか? その一方で問題ある動きは加速する。
13日、「細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟」が自民党有志によって設立された。甘利明議員や松野博一内閣官房長官が共同代表。今年中に法案や提言を作って推進するという。
細胞農業とは何か? 細胞培養肉のことだ。要するに動物から幹細胞を取り出して、培養して肉を作る技術。要は写真のようなバイオリアクター(バイオ反応炉)の中で培養する。つまり、肉を工場で作る技術。世界を多重危機に追い込む工業型農業の成れの果てなのだけど、ところが今、宣伝がすごい。
「動物を殺さない、動物愛護のために必要」
「気候変動を引き起こさない、環境にいい」
「広大な畑がいらなくなるから、環境保護につながる」
「SDGsのために細胞農業を推進」
「抗生物質を使わない安全な食」
悲しいことに、一定、環境問題や動物愛護に関心のある人が騙されてしまっている。残念ながら、その実態はこの宣伝文句とはかけ離れている。
そもそも畜産は自然の循環の中から食肉を作り出す行為だった。太陽の光で育った植物を動物が食べ、動物が食べることで糞が土を作り、循環する。その循環から切り離して、工場で培養する。循環を断ち切られた培養肉の生産はそのまま大きな環境負荷とならざるをえない。モデルからして維持不可能だ。
細胞を培養するためにはこのバイオリアクターに栄養素とエネルギーをつぎ込まなければならない。培養する細胞に与える栄養はどこから持ってくるか? 現在の畜産であればアニマルウェルフェアが重視されて、健全な飼料の確保が推奨される。しかし、培養肉の栄養源はどうなる? アニマルウェルフェアの意識が高まることで飼料生産も改善の道が見えてきたが、もし培養肉が大規模に始まれば、遺伝子組み換え農業など、嫌われて、頭打ちとなっている問題ある農業は息を吹き返すことだろう。
バイオリアクターは不格好だが、牛や鳥などの生命が持っていた機能を模倣しなければならないが、どんな遺伝子操作の技術が使われようと、そこはブラックボックスになっていくだろう。そこは企業秘密とされ、「ゲノム編集」技術など遺伝子組み換え技術は使い放題になる可能性が高い。
そして、培養肉を作る上で、畜産農家も不要とされる。自動化された工場を監視するわずかな労働者とその栄養物質を作る機械化された農場があればいい、ということになるだろう。そうしてできる食は特許など知的財産権の塊であり、肉を食べる以上に特許を食べるようなものだ。特許の払えない人は食べられない。社会格差はますます広がる。
食という誰もが必要なコモンであるべきものが、特定の企業の所有物に変わる。どう分配されるのか? 社会はますます歪になる。
現在の多重危機を解決するどころか、その危機をさらに深刻化する技術であるとしかいいようがない。しかし、すでに企業は動き出していて、自民党の議連がそれに呼応し始めた。今年中に法案作りをするという。税金を注ぎ込もうということだろう。ただでさえ、食料危機が進行する中、そんなことに税金を使う時だろうか? この動きは進めてはいけない。
培養肉で議員連盟発足、生産や流通の制度作りへ2022年中に法案や提言
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/22/06/13/09610/
英語だけど、この問題をわかりやすく説明したビデオ。培養肉はLab-grownが海外の市民運動ではよく使われる。実験室で育てられた肉。
Lab-grown proteins: Three lies and one big liar
細胞培養肉の問題点に関して重要な問題点をまとめた記事
Will lab-grown food really save the planet?
https://www.gmwatch.org/en/106-news/latest-news/19282-will-lab-grown-food-really-save-the-planet
REPORT | The Politics of Protein(図もこの報告書から)
http://www.ipes-food.org/pages/politicsofprotein