「ゲノム編集でコムギの品種改良成功 小麦粉の品質向上も」(朝日新聞)「ゲノム編集でコムギ改良 雨でも発芽せず品質保持」(徳島新聞)熱狂的な見出しが躍る。
朝日新聞は10年かかる品種改良を1年でやったことに着目し、徳島新聞は「収穫が梅雨や台風の時期と重なる日本の農家は被害に悩まされてきた」と記事を締めている。農家のためになる画期的な品種改良がゲノム編集で成功した、と読める全面肯定的な記事になっている。
確かに特に今年の長梅雨で苦しんだ農家からすれば待ちに待った朗報と思われるかもしれない。開発した大学と農研機構のプレスリリースにはもう少し詳細な実験結果が書いてあるかと思ったが、研究の意義を強調するだけで、詳細は書かれていない。さらに詳細な情報を求めると突然、英語の研究論文になってしまう。これでは批判的な記事を書くことは難しいことだろう。
しかし、本当に画期的な品種改良と言えるのだろうか?
要するに種子を休眠させることに関わる3つの遺伝子を潰して、休眠期間を引き延ばすことができた、ということはわかる。しかし、その3つの遺伝子が他にどんな機能を持っているか、その3つの遺伝子を潰したことによって、操作の結果、作られるタンパク質に変異が起きていないか、ということはほとんど検証されていないようだ。唯一の言及は「一方で、植物の大きさなど、その他の性質については全ての植物で明らかな違いは見られませんでした」とあるだけ。大きさって目に見て変わらない、それは見ればわかる。その他の性質はどうやって検証したの? 時間的にやっていないことは明白。それは時間がかかるからね。
いやいや、これは遺伝子に関する研究発表に過ぎない、と捉えればおもしろい研究にもなる。3つの遺伝子を変えれば休眠期間変えられるという学術的な発表に過ぎない。遺伝子の仕組みを知る上では貴重な研究と言えるかもしれないが、問題はその後だ。
現状では日本政府はゲノム編集は自然におきる変異と大差ないとして、安全性の検証を求めることすらせずに、そのままこうした小麦の栽培を認める可能性があるからだ。
遺伝子組み換え農業が米国や南米、インドなどで始まる時には、マスメディアがそのメリットを洪水のように流して、人びとの警戒感は解かれて、あっという間に大豆やトウモロコシ、コットンの生産のほとんどが遺伝子組み換えになってしまった。危険を訴える声はかき消された。そして、20年以上たって、その大きな問題に苦しむことになる。モンサントに種子企業を買収されてしまったインドでは30万人の農民が自死に追い込まれたと言われるが、最近でもパンジャブ地方では3ヶ月に150人が自死したという。
遺伝子操作の点においてゲノム編集と従来の遺伝子組み換えは変わりなく、ゲノム編集小麦は遺伝子組み換え小麦に他ならない。でも、その危険に関する情報や規制を求める声はかき消されて日本でも遺伝子組み換え小麦の栽培が始められてしまうのだろうか?
朝日新聞 ゲノム編集でコムギの品種改良成功 小麦粉の品質向上も
岡山大学プレスリリース <ゲノム編集で迅速にコムギの特性を改良>-収穫前の雨で発芽せず良質な小麦生産に向けて-
Genome-Edited Triple-Recessive Mutation Alters Seed Dormancy in Wheat