三倍体は養殖に適していない、ノルウェー政府が10年の調査を発表

養殖魚に関するもう1つの情報、三倍体。
 三倍体は魚だけでなく、植物でもある。通常の場合は雌雄双方から1組ずつの2組の染色体をもらう2倍体が有性生殖をする生命の基本なのに、これを3組持ってしまうもの。減数分裂できないので、不妊になる。それを利用した「品種改良」も行われてきているが、この3倍体の養殖サーモンは健康などに問題があり、養殖に適さないとノルウェー政府の食料規制機関は報告を出した(1)。
 しかし、日本で「ゲノム編集」養殖を進めるリージョナルフィッシュ社はこの三倍体の「ゲノム編集」の牡蠣の開発など、三倍体種苗の開発に力を入れている。実は米国で作られている遺伝子組み換えサーモンも三倍体である。果たして三倍体の養殖は進めていいものなのだろうか?
 
 ノルウェーでは2013年から10年間にわたり、3000万の三倍体サーモンで検証してきた。今回の報告はその10年間の試験の結果である。三倍体の魚は不妊なので、養殖魚が逃げ出して影響を与えないとしているが、果たして、それが正しい方向なのか、長期間にわたり検証した結果が、正しくない、というものだった。
 
 その報告では三倍体サケは骨格や心臓の奇形を起こしやすく、白内障や皮膚潰瘍を発症しやすいという。ウイルスや細菌による感染症にもかかりやすく、養殖には不向きである。特にストレスに弱く、高温に耐えられず、栄養摂取にも問題が出るのだとのこと。
 
 自然の中でも三倍体は生まれるかもしれないが、それは子孫を残さないので、自然には影響を与えない。でも養殖で大量にそうした生命を増やしてしまうということは倫理的に、そして環境や健康の観点から言っても正しい方向ではないのではないか?
 
 しかし、日本ではリージョナルフィッシュ社がこの三倍体の技術のために公的な助成金も獲得して、人材募集をかけ、開発を推進している(2)。そして、島根県との間に世界初の「三倍体イワガキ」を作るとして、連携協定を昨年結んでいる(3)。
 この三倍体を作ることは遺伝子組み換えではないと水産庁も説明しており、三倍体の水産物はすでに流通している(4)。
 
 ノルウェー政府は10年かけてこの技術を推進するかどうか検討している。日本政府はそれもせずに公的資金で推進しているのだが、果たして、それは正しいことなのか、検証してから進めるべきではないのか?

 ちなみに三倍体では、バナナなどの例外的存在もある。もっともバナナは絶滅リスクとの闘いから自由になれない。三倍体だからダメだとは言えないだろうが、少なくとも生態系に与える影響を考える必要があるだろう。

(1) ノルウェー政府の報告書を伝える記事
Triploid farmed salmon have poorer health, says Norwegian report
https://weareaquaculture.com/news/aquaculture/triploid-farmed-salmon-have-poorer-health-says-norwegian-report

(2) リージョナルフィッシュ、2022年度NEDO「研究開発型スタートアップ支援事業/地域に眠る技術シーズやエネルギー・環境分野の技術シーズ等を活用したスタートアップの事業化促進事業」への採択が決定
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000060432.html

(3)
リージョナルフィッシュ、島根県との「島根県産養殖水産物の次世代育種の推進に関する連携協定」を締結
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000060432.html

(4) 水産庁:三倍体魚等の作出技術について(情報提供)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/attach/pdf/polyploid-3.pdf

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