食は権利、すべての人に健康にいい食を! ブラジルのホームレス運動から

 もう過ぎてしまったけれども、ブラジルでは1993年の反飢餓キャンペーンがブラジル全土を巻き込む巨大な運動になって以来、毎年、クリスマスになると、餓えのないクリスマスというキャンペーンが取り組まれる。
 カトリックが多いブラジルではクリスマスにはほとんどの店が閉まる。この日は家族と共に暮らす日なのだ。いっしょに過ごす家族を失ってしまった人にとってはつらさが募る日でもあり、自殺者も多くなると聞く。
 新型コロナウイルスはブラジルで70万人の命を奪う猛威を振るっているが、その脅威は失業と食料高騰によって、特に貧困層を直撃している。ブラジルは米国と世界一を争う農産物輸出国だが、肝心の主食である小麦は輸入に頼り、お米も輸入が増えている。新型コロナウイルス蔓延以降、輸入価格は高騰し、貧困層を直撃している。労働者党政権の後のボルソナロ政権では巨大地主を優遇する政策に転じ、小農からの食料買い上げや学校給食への予算もカットし、労働者党政権下で激減していた飢餓層がこの4年間で急速に拡大してきた。労働者党政権の下でほぼ根絶しかけた飢餓人口は2000万人近くに膨れあがっているという指摘もある。
 
 こんなピンチでもチャンスに変えるのがブラジルの民衆運動と感心するのだけど、ブラジルのホームレス労働者運動(MTST)はCozinha Solidária(連帯キッチン)という取り組みを2年前に始めた(1)。現在、ブラジル各地に作られ、現在31箇所。人びとの寄付を原資に無償の食事が貧困地域の人びとに提供されている。すでに累計100万食が提供されたという。オンライン寄付で毎月15レアル(400円弱)などの少額寄付を募っている(2)。
 
 この連帯キッチンは寄付者と貧困者をつなぐだけでなく、アグロエコロジーを実践する小農団体であるMST(土地なし農村労働者運動)やMPA(小農運動)などの農民組織とも連携を強めており、まさに社会的な連帯キッチンになりつつある(3)。
 
 慈善活動のように見えてしまうかもしれないけれども、そうではない。「食は権利であり、健康によい食をすべての人へ」。生きているものが満たされるべき権利であることが強調されている(添付のポスター。これを作ったのはブラジル・アグロエコロジー全国連絡会議Articulação Nacional de Agroecologia (ANA) のTwitterから)。

実際に貧困な農業労働者たちを組織した運動団体MSTは今やラテンアメリカ最大の有機農業団体へと成長している。彼らにとって有機食品は決して金持ちのためのものではない。
 食とは当然の権利であり、貧困層こそ農薬に汚染されていない真の栄養が必要であるとする、この考えは一部の団体が提唱しているのではなく、社会的な討論を経て、労働者党政権の栄養政策へとまとめられ、多くの民衆運動団体がそれに賛同しており、いってみれば共通のスローガンになっている。この政策は国連でも高く評価されている。この政策は極右大統領の誕生でいったん途切れたが、来年1月からまた復活する。
 
 このホームレスの運動を作り出したMTSTはすでに国連でも表彰されているが、この連帯キッチンの取り組みに対して12月15日、UNICEFは10万ドルの表彰をすることを決めた(4)。この活動はさらにブラジル全土に広がっていきそうだ。

 実際にはブラジル以上に食料事情が厳しい日本では、輸入が止まれば、ブラジルよりも深刻な飢餓に直面することは確実。日本でこそ、「食は権利! 食はみんなのもの」ということを言いたいものだと思う。日本でも年末年始は寄せ場などでは炊き出しが行われるけれども、こんな常設の連帯キッチンを日本全国で実現して、国籍や性別に関わらず生けるものが等しく生きられるような世界にしていきたいものだ。差別・排外主義も溶かしてしまう連帯鍋を作るみんなの台所を。

(1) Cozinha Solidária https://cozinhasolidaria.com/

(2) https://apoia.se/cozinhasolidaria

(3) MST: Crônica | Cozinha Solidária: partilha de alimentos e vivências
https://mst.org.br/2020/07/29/cronica-cozinha-solidaria-partilha-de-alimentos-e-vivencias/

(4) Cozinhas Solidárias recebem prêmio da ONU de combate à fome
https://psol50.org.br/cozinhas-solidarias-recebem-premio-da-onu-de-combate-a-fome/

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