「みどりの食料システム戦略」の根本問題:タネと有機認証

 2050年までに有機農業を現在の50倍にする目標を立てた「みどりの食料システム戦略」。有機農業の拡大自身は必要な方向であることは間違いないのだけど、肝心の政策が伴っていない。
 なぜ、今、世界で20年間に有機農家の数が15倍以上に拡大しているのか? それを支えた政策は何か、なぜ、日本は有機農業のパイオニアの国の一つだったのに、今は100位前後に沈んだのか、何が問題なのか、それをどう変えるか、それが問われると思うのだけど、その分析がゼロ。
 やはり農業はタネから始まる。今、有機農家の数で圧倒的な世界一となっているインドは2001年に「植物品種農民の権利の保護のための法律」を作っているし、ブラジルは2012年にアグロエコロジー(有機農業)を大統領令で進めることを決めているが、そのアグロエコロジーで必要なタネについては2003年にクリオーロ種子条項を作って、在来種の種採り・流通支援政策を作っている。イタリアも有機農業の進展が著しいが、タネを守る条例・法がすでに整備されていることがその基盤にある。でも、日本ではその政策は無い。
 
 もう1つの問題が有機認証制度。今、日本政府が認めているのは第3者認証のみ。つまり認証機関に膨大な書類を提出して認証を取るもの。手間も費用もかかるため、日本では有機認証を取っている農家はわずか0.3%くらいしかいない。しかし、今、世界では参加型認証(Participatory Guarantee Systems、PGS)による有機農家が急激に増えている。これは有機認証の際にその負担を個々の農家に負わせるのではなく、消費者や流通業者、そして周囲の農家が相互にチェックする。書類作成の手間の代わりにいろんな人がチェックするので手間はやはりかかるけれども、費用はさほどかからない。農家の経済的負担が減るだけでなく、外部の人たちとの連携も強められる。第3者認証と違い、農家同士で農法を高め合う上でも有効な仕組みだ。
 
 この参加型認証は特にアグロエコロジー運動の中で発展してきた。地域ぐるみ、グループで高め合える方法としては第3者認証にはない有効な方法として、IFOAMもその意義を認めている。フィリピンではこの参加型認証の事務局を務めるのは遺伝子組み換え反対運動やシードバック作りで活躍しているNGOのMASIPAG。韓国では生協が参加型認証を担っている。インドでは地方自治体が関わる。
 
 しかも、この参加型認証は日本にとって本来とても親和性のある取り組みであるはずだ。というのも、今や国際語となった産直提携運動は日本から生まれたが、この産直提携こそ、参加型認証のモデルになりえるものだからだ。消費者と生産者が顔の見える信頼関係を作り出し、お互いを支え合うあり方はその原型と言える。生協の活動にもなじむだろう。
 もし、日本政府がこの参加型認証の意義を認めていれば、日本での有機農業の発展は別物になっていたかもしれない。むしろ本来日本政府が日本生まれの有機農業モデルとして世界に打ち出すべきものだったのではないか? でもその真逆の姿勢をとり続けてきた。日本政府が認めないので、現在では国際的に参加型認証による有機農家であったとしても、国内的には「有機」を名乗れない。
 
参加型認証の違い

 日本政府は頑なに参加型認証を認めようとしない。これではダメではないか、と農水省の担当者に聞いてみた。
 「参加型認証は貧しい国で第3者認証ができないところで認めるものであって…」
おい、なんだよ、その認識。ヨーロッパでも参加型認証はあるし、だいたい日本は有機農業に関してはもう先進国ではなく、後進国。だから0.3%しか得られない。そんな認識だからパイオニアの位置にあった日本を後進国にしてしまったんでしょ。その分析なく、ひたすら古い考えにしがみついている。
 4月8日の参議院本会議で横沢高徳議員が参加型認証について質問をしたが、農水大臣はゼロ回答。検討する姿勢すら一切示さない。
 
 日本は有機農業のパイオニアの地域の一つといえるだろう。日本での実践は世界でも尊敬されてきたし、参考にされている。でも、政府の政策は世界の動きからはまったく何も学んでいないといわざるをえない。
 
 しかし、日本では参加型認証は有機という言葉が使えないという不利な中だけれども、活用は可能であり、岩手のオーガニック雫石は国内初めての参加型認証団体の資格をIFOAMから得ており、活動を拡げている。そのオーガニック雫石は参加型認証のメリットをまとめたパンフレットを発行した

オーガニック雫石のPGSパンフレット

 この参加型認証はたとえば地域コミュニティで取り組む、たとえば朝市、ファーマーズマーケット、農民組合でも生かすことができるだろう。自治体が取り組むのはとても効果的だろう。協議会を作って、そこが参加型認証をできるようにすれば、地域での有機農業は格段に進みやすくなるはずだ。そして、日本政府・農水省の頑なな姿勢が変われば、状況は大きく変わるはず。

 タネ、技術支援、認証、公共調達は有機農業、地域の農業の発展にとって不可欠な要素。基軸となるべき小規模農家の支援策が不在どころか水田活用交付金の打ち切りなど、本来あるべき農政が真逆の方向を向いたまま、エンジンふかそうとしているのが現在の状況であることを見ても、このままではこの戦略の成功は不可能と言わざるを得ない。

 19日には参考人質疑による参議院農水委員会での審議が行われると聞くが、こうした姿勢をぜひ少しでも変えるように心ある農水委員の議員の方々の奮闘に期待したい。

オーガニック雫石
https://organicshizukuishi.jimdofree.com/

PGSパンフレットについてのお問い合わせは次の加藤淳さんのアドレスまでとのこと。
nanbukatahuji@gmail.com (@は全角にしているので、コピペする場合は@を半角にすることをお忘れずに)

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