生物多様性条約COP16会議の成果:アフロ系コミュニティの声に耳を

 さまざまな生物が激減する生物多様性絶滅危機が進行している。ハチが姿を消し、蝶や鳥も激減している。その危機を食い止めることができるのか? コロンビアのカリで10月21日から開かれていた生物多様性条約締約国会議CBD-COP16が11月2日に閉幕した。
 合意にたどり着けないまま代表者が帰国する国が多く、結局、会議では多くのことが決まらないまま、再開のめども立たないという状況だが、限られた会期の中で成果もいくつかあった。そのことをメモしておきたい。
 
 世界の種子を独占する種子メジャーや製薬企業は以前は希少な遺伝資源を勝手に使って利益をあげ、その希少な遺伝資源を守ってきた人びとに利益を還元していないということで、そうした資源に対する主権の重要性がこの生物多様性条約で認められることになった。
 しかし、近年の遺伝子技術の進展により、遺伝子情報さえあれば、合成することができる時代になってしまった。そのため、デジタル化された遺伝子の配列情報(DSI)だけあればいい、オリジナルの生物は失われても構わない、その生物を守ってきた人びともどうでも構わない、結果的に生物多様性は失われてしまう、そんなことが危惧されるようになった。
 今回のCOP16では、DSIを利用する企業がその利益の一部から基金を供出し、その生物を守るコミュニティに還元させるカリ基金の創設が決まった¹。一つの成果と言えるだろう。
 
 もう一つがGeoengineering。地球工学とも訳されるが、化学物質によって気温上昇を止めるなどの技術。遺伝子組み換えなどの遺伝子工学と同様、取り戻せない被害を生態系に与える可能性があり、また巨額の費用が政府から企業に流れるという問題もあり、CBDでは名古屋で開かれたCOP10において実質的なモラトリアム(禁止)が確認されたが、その後も実験的なGeoengineeringが進められており、今回のCBDの会議でこのモラトリアムが停止されてしまうことが危惧されていたけれども、市民組織の働きかけでモラトリアムは維持された²。
 
 今回のCOP16で画期的だったのがアフロ系コミュニティの参加が実現したこと。ラテンアメリカにはアフリカ系の人びとが多くおり、その中には奴隷主からの束縛を抜けたアフロ系の人びとが伝統的コミュニティを作り、そのコミュニティが現在も維持されている。このアフロ系コミュニティは先住民族コミュニティと同様、生物多様な地域に居住しているケースが多く、生物多様性を守る上でも重要なプレーヤーで、ブラジル憲法でも先住民族と同様にその権利保護が規定される存在になっているが、今回、CBDの締約国会議がコロンビアで開催ということでラテンアメリカのアフロ系コミュニティの参加が実現し、先住民及び地域社会の参画に関するCBD第8条(j)に関する補助機関の設置が決まった¹。
 
 特にラテンアメリカの先住民族やアフロ系住民を脅かしているのが単一種による大規模商業植林、特にユーカリの大規模植林だ。ネイティブな森林が多様な生物を育む住み処になるのに対して、ユーカリ植林で生きられる生物はきわめて限られてしまい、多くの生物の絶滅を加速しており、またその地域では農業、漁業も壊滅的な被害を受ける。すでに多くの地域で植林が南の世界では進んでいる。さらにラウンドアップ(グリホサート)耐性遺伝子組み換えユーカリが開発されて、その植林が始まろうとしているが、これについては森林製品の認証規格・団体であるFSCが市民組織の働きかけもあって承認していないため、まだ商業栽培は確認されていない。
 しかし、この事態を大きく変える可能性があるのが「ゲノム編集」樹木。「ゲノム編集」は遺伝子組み換えでないとして、大規模に商業栽培が始まってしまうかもしれない。遺伝子組み換え大豆も「ゲノム編集」トマトも環境中に出ているのは長くて数ヶ月、しかし、遺伝子操作樹木は何年も環境に曝され続けるので、環境にはより多く影響を与えてしまう可能性も指摘されている。
 このCOP16では先住民族やアフロ系コミュニティ、世界の市民組織が遺伝子操作樹木の禁止を求めた³。
 
 こうした樹木の植林によってもっとも影響を受けてしまうのが自然の中で、自然の恵みを生かして生きている先住民族やアフロ系住民(ブラジルではキロンボーラと呼ばれる)であり、彼らが直接声を上げることができるようになった点、コロンビアのカリでのCOP16は重要な会議になったということができるだろう。
 
 ユーカリの大規模植林は日本政府が1970年代後半、ブラジルで政府開発援助(ODA)を使って始めた。日本では官民で遺伝子操作ユーカリなどの開発が進んでいる。この問題は対岸の火事ではなく、日本でも植林が行われる可能性も十分ある。
 
(1) 外務省:生物多様性条約第16回締約国会議等の結果概要
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/pagew_000001_01063.html

(2) PRESS RELEASE: A Big Win As UN Convention on Biological Diversity COP16 Reaffirms Geoengineering is a Risk

PRESS RELEASE: A Big Win As UN Convention on Biological Diversity COP16 Reaffirms Geoengineering is a Risk| NOTA DE PRENSA: La COP16 del Convenio sobre la Diversidad Biológica de la ONU reafirma que la geoingeniería es un riesgo

(3) Exigen prohibir árboles transgénicos
https://www.servindi.org/seccion-ambiente-actualidad/29/10/2024/exigen-prohibir-arboles-transgenicos

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