気候危機、生物絶滅危機などの多重危機の同時進行を進めている原因を追求していくと、世界のほんのわずかな企業が推進する産業モデルがこの多重危機を加速させ、そのモデルが世界中に各国政府の政策によって広げられている問題にぶちあたる。その勢力の一つが化学肥料企業。
この状況に対して、FUEL to FORKという新しいキャンペーンが始まった。私たちの食は化石燃料でできている! 食べながら気候変動を引き起こしている。だから、食べものを変えれば多重危機も回避できる。まずは食べものから¹。
化学肥料の多くの部分を窒素が占める。天然ガスから水素を分離させ、大気中の窒素と反応させてアンモニアを作る。このアンモニアが窒素肥料の原料となる。こうした化学肥料を使って食を作るというのは天然ガスを使って食を作るということであり、気候変動をさまざまな形で激化させる。
化学肥料の大量使用はあまりに多くの副作用をもたらす。ざっと上げてみると、
・ 気候変動の激化
・ 地下水、河川、海の汚染(生命が生きられないデッドゾーンの拡大)
・ 大気汚染とそれによる健康被害
・ ブルーベビー、酸欠による健康被害
・ 発がん性物質の生成
・ 農薬の使用増加
・ 土壌微生物への悪影響
・ 生物多様性の減少
・ 土壌の劣化→生存がより困難に
この化学企業は戦争になれば爆弾原料の製造企業に変わる。第2次世界大戦で急激に拡大したアンモニア製造能力を戦争終結後も維持するために、世界に化学肥料の使用が推進されたとも言えるだろう。
化学肥料企業と言ってもどんな企業があるのか、意識されないだろう。でも、世の中に存在する農薬企業、石油天然ガスなどの化石燃料エネルギー企業は化学肥料企業と密接につながり、各国政府も大きくその政策を左右される存在になっている。例をあげてみればすぐにわかるだろう。日本では住友化学、三井化学、そしてかつてチッソは化学肥料企業であった。
しかし、世界で有機農業の推進が進み、日本も化学肥料を大幅削減するみどりの食料システム戦略が立案された。化学肥料企業の将来もようやく翳りが見えた? いや、化学肥料企業は2050年までにさらに拡大するとみられている(ということは気候危機はさらに加速する)。世界の有機農業推進政策も大幅に弱めるために、これらの企業群は連携して、その政策を変えるためにロビー活動を強め、すでにその多くの政策が骨抜きになっている²。つまり、化学肥料企業の衰退は農薬企業の衰退をもたらし、化石燃料セクターも衰退する。彼らは運命共同体なのだ。
そして、彼らはさらにこの破壊力を増大させるために、気候変動対策をも利用し始めている。化学肥料企業が天然ガスから大量に作り出す水素やアンモニアが気候変動を生まないクリーンエナジーであるという虚構を広め、ブルー水素、ブルーアンモニアなどの看板を掲げて、その活用をロビー活動して、日本政府もそれに乗ってしまっている。トヨタが水素エンジンにその開発のかなりの資源を注力しているのも、大問題。電気自動車の開発はその分おろそかになり、気候変動を進める技術がその分、進む。確かに水素そのものは気候変動を進めないが、その水素を作るために大量の化石燃料が使われるのだから、水素だけを取り出して、クリーンということはまったく愚かな話³。
しかし、マスコミではこの問題は報道されない。なぜならトヨタやエネルギー産業、化学肥料、農薬などの気候変動推進コングロマリットが広告でマスコミを買収しているから。
偽物の気候変動推進政策を止めさせ、そして本当の有機農業・アグロエコロジーによる食に変えることこそがこの多重危機を止めることにつながる。
(1) Fuel to Forkのキャンペーン
https://tabledebates.org/fueltofork
(2) 農林水産省は来年度、化学肥料や農薬を使わない有機牧草を生産する酪農家への交付金を3分の1に大幅減額。大問題。牧草の有機化は各国でも有機農業の基盤となるもの。背景には当然、ロビーがあることは間違いないだろう。
有機牧草交付金、減額へ 農水省 生産性重視に方針転換
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1081449/
(3) 化学肥料企業がもたらす被害と気候変動危機政策への悪影響についての包括的な報告書(67ページ)の紹介
Fossils, Fertilizers, and False Solutions: How Laundering Fossil Fuels in Agrochemicals Puts the Climate and the Planet at Risk (October 2022)