秋田県小坂町の「あきたこまち」から基準値越えるカドミウム検出

 秋田県の「あきたこまち」から基準値を上回るカドミウムが検出されたという報道が出た。基準値の0.4ppmに対して、最大0.87ppmというからかなり高い値ではある。
 もっとも、たまたまこうしたお米を食べたとしても直ちに健康被害に至るようなことは考えにくい。カドミウムは有害な重金属とされるが、まったく人体にないと筋無力症にもなってしまうという¹。つまりごく微量は必要であり、それを越えて蓄積されると問題を引き起こす。
 
 汚染米が出たのは秋田県小坂町²。十和田湖に面した山合いの地域で、小坂鉱山があった。1990年に閉山。しかし、その鉱山活動ゆえに周辺地域がカドミウム汚染された。環境省によって1974年に土壌汚染対策地域に指定されたが、対策事業は完了し、1993年には指定も解除されている。もっとも対策事業が汚染土壌にカドミウムに汚染されていない土を20センチ被せるのみの場合、その表土が失われてしまえば、すぐに汚染層が環境中に露出する。汚染事業が終わってから30年近く経ち、果たして、その対策事業が十分効を奏しているのか、毎年、常時検証作業は行われているものの、それで十分だったか。カドミウム汚染対策がしっかりしなければその地域の安全は確保できない。だから汚染対策をどうするのか、今一度、再確認が必要である。
 
 対策事業は済んでいる地域でも、残念ながらカドミウムは十分安全な形で隔離されているわけではない。そんな汚染地域で安全な米を作るための方策はどのように講じられてきただろうか? それは後で見るとして、今回の件で深刻なのは、この汚染米のチェックが遅れて、すでに販売へと進んでしまったことだろう。東京都や横浜市にも出荷されたようだが、その後の自主回収がどうできたのか、まだ調査中となっている。
 
 今回の件で一番懸念されるのはそのお米を食べる割合の多い地域の人だ。というのも、水田の地権者や縁故米として小坂町周辺でかなりの量が出まわったと考えられるからだ(添付図参照)。北里大学は、秋田県では汚染地域で自家米の消費によって、カドミウム腎症などの被害が起きていると調査報告を発表している³。毎日、カドミウム汚染米ばかり食べ続ければ、腎臓などに障害が発生してしまう。


 
 この地域が汚染されたのは農家の責任ではない。国策として推進された無理な鉱山事業が地域を汚染してしまったのだから、その責任は国とその鉱山会社にある。農家は被害者であって、すべての人が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(憲法25条)を有しているのであるから、本来は十分な補償を受けて、安全な食を確保することは政府の義務のはずだ。でも、政府の施策はその義務を果たしてきたとは到底いえない。カドミウム汚染地域での米の検査費用も出荷団体の自己負担に任されている。これは憲法上の平等を著しく逸脱する。
 
 また、秋田県はこのカドミウム被害の実態を当然、調べているだろうと考え、その対策をどうしようとしているのか、と質問状を送ったが、その答えには唖然とする他なかった。対策どころか調査もしないと言い切るのだから⁴。
 
 農水省や秋田県は「だからあきたこまちRが必要だ」という。これは重イオンビーム放射線によってカドミウムを吸収することに関わる遺伝子を損わせることで、カドミウムを吸いにくい品種となっている。しかし、この品種を導入すれば問題を解決できるかというと、それは解決にはならない。別な新たな問題を生むからだ。
 
 重イオンビーム放射線で損なった遺伝子はマンガンを吸う機能を担っていた。マンガンは稲が生育する上で、光合成する上での中核を担い、また病虫害と闘うための植物免疫の柱となるファイトケミカルをつくり出す上でも要となるミネラルである。それも吸えなくなるので「あきたこまちR」はマンガンの少ない水田では満足に育たない可能性がある。

 マンガンの不足した水田にマンガンを足してやればいいかというと、不足分を補うことは有効だが、過剰になってしまえばこれは重金属汚染になってしまう。マンガン過剰はパーキンソン病や免疫低下、骨格変形・発育障害・糖尿病・脂肪代謝異常・生殖腺機能障害・筋無力症などをもたらすという⁵。「あきたこまちR」の栽培が全県化してしまえば今度はマンガンによる重金属汚染の懸念が出てくる。

 しかも、この遺伝子は潜性(劣性)であり、交雑してしまえば、元の遺伝子の機能が甦り、カドミウムも吸うようになる。潜性の遺伝子を維持することは容易ではなく、山口県での栽培実験でも「コシヒカリ環1号」は7年ほどで突然、カドミウムを吸収する稲に戻ってしまった。また、潜性の遺伝子を発現させ続けるためには同じ潜性同士での受精を続けなければならないため、雑種強勢とは逆の近交弱勢になって、弱ってしまい、長期間にわたって品種として維持することは容易ではないだろう。
 
 欠陥を持つ品種の一本足打法に頼ってしまえば、その一本足がこけた時に取り返しがつかない事態となってしまう。また、稲以外の作物はまったく無策のまま。稲以外の作物もカドミウムを吸うし、稲だけ変えれば問題解決というわけにはいかない。実際、お米以外は十分な検査も行われておらず、対策も立てられていないのが現実であり、このアプローチでは問題は残ったままだ。

 どのような方策があるのか、考えたい。
 
 まず、高汚染の地域では地域の住民への補償をした上で、カドミウム汚染除去・隔離をしっかり取り組むことが何より必要だろう。今回の汚染米が出た地域がいったん汚染地域に指定され、対策事業後、指定が解除されていたことを考えれば、施策の有効性の見直し含めて考える必要がある。
 
 また、農法によってカドミウム被害を防ぐ方法がある。
 農水省はカドミウムを吸収しない農法として、出穂期に水をしっかり張る湛水管理を推奨してきた。その状態だと水田の土壌のカドミウムは稲に吸収されにくくなるからだ。でも、この湛水管理による方法は雨不足など天候に左右されやすく、出穂期に水不足となると、汚染米が出るという不安定さがあるのが難点だ。
 こうした汚染に対する方法として、この他にもいくつも方策があることが見えてきた。その一つがバーク材(杉の樹皮)の発酵堆肥の活用で、群馬大学の板橋教授が堆肥がカドミウムを閉じ込め、ほとんど作物にカドミウムが移行しないことを実証している⁶。カドミウムが移行しないだけでなく、土壌の状態もよくなり、食味もよくなり、収穫も増すし、地域の林業の活性化にもつながるのだから、鉄資材をよそから持ち込むよりもはるかに維持可能性も高く、地域の経済の貢献にもつながる方法となるだろう。この他にも土壌改良材で有効な効果があるという情報がある⁷。
 もっとも、農水省での資料を見ると、土地改良材としては鉄資材の投入などに対応が限られているように見える。鉄資材の投入は水の中の酸素を奪い、カドミウムを吸収しにくくする効果があるが、いったん酸化した鉄はもう酸素を吸収できなくなるし、経済的な負担や持続性も疑問となる方法であり、実際に行われているという話は聞かない。
 汚染を減らす方法として、汚染を吸い上げやすい植物を活用した土壌の浄化(ファイトレメディエーション)、そうした植物との混作・輪作も有効であると言われているが、このような取り組みは残念ながらこれらも実施されている例を聞かない。米国ではPFAS汚染に対して、さまざまなファイトレメディエーションの方法が試されている。しかし、日本では農地汚染の担当省は環境省であり、このような縦割りが根本的な解決策を作れない大きな原因を作っているではないか。
 現時点では結局、湛水管理一本槍なのが現状だろう。そして天候によって汚染米が出る、ということが繰り返されている。カドミウム汚染に対する総合的、長期的施策こそが必要なのであり、すでに効果的な知見が群馬県をはじめ、出ていることは大きな朗報であり、問題はそれを政策としてしっかり進められるかにかかっている。
 
 カドミウムを吸わない稲を導入すればカドミウム汚染問題はきれいになくなってしまうわけではない。地域は汚染されたまま変わらない。政府の縦割り、責任をできるだけかぶらないですませようとするその姿勢によって、カドミウム汚染の問題が恒久化しようとしている。地域・地域住民はむしろそのことによって切り捨てられようとしている。そしてこの姿勢は放射性物質汚染、PFAS汚染にも残念ながら共通していると言わざるを得ない。
 
 カドミウム汚染、そして、現在進行しているPFAS汚染に取り組むためにも、このカドミウム汚染の問題はどうやって解決するか、多くの人によって議論されるべきことのはずだ。小手先の技術で解決したことにすれば、そのしっぺ返しは確実にやってくる。
 
 汚染のない(少ない)未来のためにも、今の決断は大きな意味を持つ。汚染をなくすための総合的な政策・施策を求めていきたい。
 
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(1) 「金属は人体になぜ必要か」(桜井弘 ブルーバックス講談社)より引用・構成
東京大学: 人体に含まれる元素(カドミウムの項目参照)
https://www.tokai.t.u-tokyo.ac.jp/kyodo/kaihoken/02_Kaiho_db/yomimono/radiation/Chap-1/P1-6-5_A.htm

(2) 秋田県: カドミウム基準値超過米の流通について(第1報)
https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/88452

(3) 忘れられた我が国最大のカドミウム汚染地─秋田県─における実態調査と保健・医療対策
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H05261/

(4) プレスリリース:秋田県は「あきたこまちR」土壌のカドミウム・マンガン濃度の測定も健康被害調査もしないまま全面切替え?!
https://v3.okseed.jp/news/5829

(5) 四万年後の米が食卓へ
https://blog.goo.ne.jp/saiwaihappinessclinic/e/96799b79887632db22b0578c905a8894
注1のページにもマンガン過剰による症例がまとめられている。

(6) 群馬大学板橋教授の研究とその応用について書いた投稿
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/pfbid0NG5zAkqo8CxQu8akvNdB3b4WY3YMHSA1tZzjj8oDgcp9xe28sn9VMip6NtNGyjEHl

(7) 「農地ミラクル」という土壌改良材で、自己免疫力の高い農地を構築するために作られたもので、コーンコブ炭と腐食液を配合したものを使うと、数年でカドミウムを検出しなくなるなどの成果が上がったという。詳細はわからないが興味がある。
https://r.goope.jp/anbian-sendai/menu

添付したのは(2)の秋田県のページにある資料に赤い丸を加えたもの。

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