有機農業と差別・排外主義、優生思想:ブラジルの運動から考える

 食料高騰がひどい。さらには食料危機。急いで国内での食料増産に向け動かなければならないのに、日本政府はさらに軍事的危機を煽って防衛費増強という真逆の方向に走っている。
 軍事的危機を煽らなくても私たちは十分、多重な危機のまっただ中にいる。気候危機、生物絶滅危機、そして食料危機。戦争始める前に、対外貿易止まれば2年で国内6割が餓死するというアフリカの多くの国よりも脆弱な日本の農業をなんとかしなければならないのに。
 
 この危機はどう超えられるのか、すでに答えは出ている。グローバルな食のシステムへの依存を減らし、ローカルな食のシステムを強化すること、同時に生態系を守る社会へと転換させること。そして、差別・排外主義や優生思想と闘い、一人一人の尊厳を守ること。この3つの要素が不可欠だが、すでにそんな実践をしている運動がブラジルにある。
 
 ブラジルの土地なし農業労働者運動(MST)。MSTは貧困な農業労働者を組織して、農地改革を実現し、世界で最悪レベルの富の不平等なブラジルで、人びとが農地を得て、小農として生きられる社会を作ろうと生まれた団体。生まれた当初は小農が生き残るためには農薬を使おうが、構わないところがあって、環境運動とも衝突していた。でも、その農業を続けると、結局、債務に陥ることが多発した。一方で支援を受けて、有機農業・アグロエコロジーを選択した農家はそんな状況に陥らなかった。10年以上かけて、MSTは農家としての生存可能性の高いアグロエコロジーこそ選択する道であるとして、アグロエコロジーの旗を掲げる。
 
 そして、今や、ブラジルはおろかラテンアメリカ最大の有機米生産団体にMSTは成長する。ラテンアメリカでは有機農業は金持ちのためのものではない。MSTは都市のホームレスの人びとやスラム街(ファベラ)への食料支援、国際連帯にも積極的だ。
 
 そして、MSTは女性やLGBTQへの差別問題について何度も何度も研修を開き、克服しようと努めている。なぜか? そうした差別や家父長制は農村を窒息させる。アグロエコロジーを発展させる主体が育たなくなるからだ。
 また、子どもたちのプログラムがすごい。MSTは決して金持ち団体なのではない。それどころか小農を追い出そうとする武装した大地主の自警団に毎月のようにリーダーが殺されるような状況にある。そんな大変な状況の中でも子どもたちのプログラムを止めない。なぜそこまでエネルギーを割くのか? 答えはシンプルだ。子どもたちが農村を捨ててしまえば、命をかけて得た農地を失うことになってしまう。子どもたちが農村に未来や希望を見出すことこそ、小農によるアグロエコロジーが発展していくための基礎条件なのだ。
 
 何が言いたい? 家父長制を押しつけて、古い家族の概念を押しつけたり、自民族優越主義などと有機農業の発展というのは相容れないということだ。
 女性や性的少数者の権利、そして子どもの権利を守ること、そして排外主義を許さない、これは現在の日本にも当てはまる。これらの古い思想は食料危機を急速に引き寄せる。特に全然食料自給していない日本が排外的な態度を取れば、日本はすぐにでも食料難になってしまう。
 
 日本は戦前、中国東北部(「満洲」)と朝鮮半島に8割の大豆を依存していた。その依存は戦後、米国の農業政策に組み込まれることで温存された。そして米国の大豆禁輸令を受けて、ブラジルのセラード開発へ。現地の悲鳴を日本のマスメディアは一切報道しなかった(現在も)。日本の植民地主義は温存されてしまった。それに依存しながら日本国内だけよければいいというものではない。変えるためには歴史的な反省が不可欠だ。アマゾン・セラード破壊と日本の食はつながっている。この植民地主義、そして対米依存も解決しなければならない。

 歴史を書き換えてしまえば、未来は奪われる。歴史から学んでこそ、正しい道は見えてくるし、希望も見えてくる。人間としての尊厳はそのような行為によって回復される。改竄することによって回復されることなどありえない。現在の食の危機と政治の危機、それを乗り越えて、国内はもちろん、世界の人びととも未来への希望を語れるようになりたいと思う。

アグロエコロジーと生産者組織(1時間17分11秒)

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