政府が人びとの望まない政策をどんどん進めていく。こんな時にどうしていけばいいのか、とても参考になる取り組みがある。それがブラジルのアグロエコロジー運動。アグロエコロジーとは生態系を守り、その力を活用する農業に関する科学であり、そうした食のあり方をめざす農家の実践や市民の社会運動でもある。
これまでブラジルのアグロエコロジーを支えてきた柱は学校給食(PNAE)と食料調達政策(PAA)だった。政府が買い付けを保障するから、農家が現金収入を確保できる。市場に買い叩かれなくて済む。でも、極右大統領が誕生し、これらの予算を大きくカットした。新型コロナウイルスの蔓延による失業、コメや小麦など輸入穀物の暴騰という中、この政策により、飢餓層が急増する。そして、この極右大統領は空前の勢いで農薬を新規承認。現在、ブラジルで承認されている農薬の半数を占めるまでになった。海外では禁止されている農薬が続々と承認された。種苗企業は遺伝子組み換え企業によって買収され、大豆やトウモロコシ、コットンなどは遺伝子組み換え種子ばかり。
このような逆境の中でも、ブラジルのアグロエコロジー運動は地域に根を張ることで生き延びた。地方自治体が予算を出し、地域のアグロエコロジー生産をバックアップする、そんな例がブラジル全土で487存在するという(1)。その例を1つあげてみよう。 “根を張るブラジルのアグロエコロジー、一方、日本の統一地方選は?” の続きを読む
近刊のお知らせ。 『ブラジルの社会思想』小池洋一・子安昭子・田村梨花 現代企画室
ブラジルの社会思想を彩る思想家、実践家、芸術家たちを通じてそのダイナミズムに迫る本。僕はほんの短いコラムを書いただけなのですが、扱われた人物のそうそうたる名前を見るだけでもその営みの大きさを改めて再認識します。なんと512ページの大著になったとのこと。出版されるのが楽しみです。 “近刊のお知らせ。 『ブラジルの社会思想』小池洋一・子安昭子・田村梨花 現代企画室” の続きを読む
気候危機を止める食と農:COP27を前に国際的市民と自治体の連帯
気候危機がいよいよ深刻化する中、COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)が人権侵害の懸念の大きいエジプトで始まった。気候危機を作り出す真犯人が救世主の振る舞いをしていることを見抜く必要がある。そして、食を地域で変えることで気候危機を克服することができることを多くの人が世界で認識し始めている。 “気候危機を止める食と農:COP27を前に国際的市民と自治体の連帯” の続きを読む
アマゾン・セラード破壊と日本の危機
アマゾン破壊と日本の年金について昨日書いた(1)が、このアマゾン破壊と日本の問題は今、日本の危機に直結する時代を迎えていると思う。日本の食料危機であり社会の危機に。なぜか? “アマゾン・セラード破壊と日本の危機” の続きを読む
大地を再生するリジェネラティブ・アグリカルチャーの映画
世界の大きな底流。辻信一さんの言葉で言えば「反生命」から「生命」への流れ。リジェネラティブ・アグリカルチャー(大地再生型農業)の大きな進展を描いた映画。
この映画はそのリジェネラティブ・アグリカルチャーが米国や世界の農業を変え、農業だけでなく、漁業や社会までも変えるさまを描き出している。推薦文を書かせてもらったのだけど、そこで一言、批判めいたことも書いてしまったので、簡単に触れておきたい。 “大地を再生するリジェネラティブ・アグリカルチャーの映画” の続きを読む
有機農業と差別・排外主義、優生思想:ブラジルの運動から考える
食料高騰がひどい。さらには食料危機。急いで国内での食料増産に向け動かなければならないのに、日本政府はさらに軍事的危機を煽って防衛費増強という真逆の方向に走っている。
軍事的危機を煽らなくても私たちは十分、多重な危機のまっただ中にいる。気候危機、生物絶滅危機、そして食料危機。戦争始める前に、対外貿易止まれば2年で国内6割が餓死するというアフリカの多くの国よりも脆弱な日本の農業をなんとかしなければならないのに。
この危機はどう超えられるのか、すでに答えは出ている。グローバルな食のシステムへの依存を減らし、ローカルな食のシステムを強化すること、同時に生態系を守る社会へと転換させること。そして、差別・排外主義や優生思想と闘い、一人一人の尊厳を守ること。この3つの要素が不可欠だが、すでにそんな実践をしている運動がブラジルにある。 “有機農業と差別・排外主義、優生思想:ブラジルの運動から考える” の続きを読む
金子美登さん、追悼
日本を代表する有機農家と言えば必ず出てくる金子美登さんの訃報。あまりに突然で言葉が出てこなかった。それほど親しくさせていただいたわけではなく、遠くからその姿を見る関係であったけれども、小川町に講演に呼んでいただいた上に、霜里農場を案内していただいたことは忘れられない。
日本を代表する有機農家といえばどんな人をイメージするだろうか? 自然を愛する哲人? もちろん、それは間違っていないのだけど、金子さんは何でも手掛けるマルチな人だった。それはたとえば再生油で動くトラクター(写真)、畑で必要なエネルギーも自分が作る、トイレは一見普通のトイレだが、それも畑の肥やしになる、すべては循環する地域循環のシステムを作り上げるエンジニアであり、さらにそんな社会を夢想するビジョナリーだった。
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米国農務省、有機農業転換計画を本格始動
これまでの化学肥料や農薬に依存した工業型農業から離脱することは急務だ。なぜならこれが様々な多重危機の根幹の主因となっているからだ。気候危機も生物絶滅危機も人の健康危機も、そして食料危機も深く関わっている。すべての状況ですでに待ったなし。だから食料危機を前に「有機農業は棚上げ」という宣伝に対しては警戒しなければならない。逆に今こそ、化学肥料や農薬に依存した農業からの脱却は待ったなしなのだから。そして、世界ではCOVID-19のパンデミック、ウクライナでの戦争を受けて、この必要性を多くの人びとが理解するようになってきた。
あの米国でも有機農業への転換計画が始まる。Organic Transition Initiativeがそれで、予算は3億ドル(今日のレートで413億円くらい)(1)。米国としては大きな額ではないが、昨日紹介したFarm to Schoolとも連動して動けば、米国でも一気に有機学校給食が増やせるし、食のシステムを変えるきっかけを作り出すことにつながる可能性があると市民団体は注目する(2)。 “米国農務省、有機農業転換計画を本格始動” の続きを読む