モンサント、不当なロイヤルティの徴収に対する違法判決下る!

モンサントはアルゼンチンの経済混乱につけ込んで入り込み、ブラジルやパラグアイなど遺伝子組み換えを認めていない国にも強引に入り込んで、わずか数年のうちに南米を遺伝子組み換えの国にしてしまった(モンサント、ブラジルの遺伝子組み換え大豆「開国」の手口 日刊ベリタ参照)

圧倒的多数の市民が反対しているにも関わらず、民主的プロセスを経ることなく、遺伝子組み換えは強引に合法化されたのだった。合法化以降はモンサントや他の遺伝子組み換え企業は政府に圧力をかけ、よりいっそうの遺伝子組み換え種の承認を計っている。この間にブラジルは世界一位の農薬使用国になってしまった。

モンサントのビジネスモデルは種子の供給を独占し、非遺伝子組み換え種子を可能な限り排除し、種子と農薬をセットで売りつけ、農業生産を支配し、独占的な利益を得るというものだ。モンサントの開発した種子から出た花粉で汚染された有機農家が被害を受けたにも関わらず、勝手にモンサントの種子を盗んだとして訴えられ、莫大な訴訟費用の前に廃業に追い込まれるケースが報告されているが、モンサントはその開発した種子の特許、知的所有権を武器に広大な地域に影響力を急速に及ぼすようになった(もっともその影響を与えている地域は世界全体で見るとわずか1割程度であり、南北米大陸にそれは集中している)。

しかし、そのビジネスモデルを正面から否定する判決が南米の遺伝子組み換え王国のブラジルで下った。

モンサントの遺伝子組み換え大豆のロイヤルティ、技術料、補償金の徴収を違法として、その徴収を禁止するというものだ。さらに本格的に(非合法下に)耕作が始まった2003年からの課金の返却までをも命じるものであり、モンサントのビジネスモデルを揺るがす内容を持っている。

ブラジルでは2003年以来、左派の労働者党政権が成立したが、農村地域においては大土地所有者の政治力は依然として強く、ルラ政権は大土地所有者への譲歩を続けた。世界的にも土地所有に極端な不平等のあるブラジルでは農地改革は長く社会の大きな課題であった。しかし、モンサントの登場と共に逆農地改革ともいうべき、土地を貧しい農民に分配するのではなく、大土地所有者への土地のさらなる集中が起きた。

多国籍アグリビジネスとブラジルの大土地所有者との連携の下、遺伝子組み換え大豆の生産は飛躍的に伸びた。しかし、同時に大豆生産農家とモンサントの間に不協和音も聞こえるようになってきた。今回の訴訟はその不協和音が確定的なまでに大きなものになっていることを物語っているように思える。

モンサントの政治力は未だに健在と思われる。この判決はすぐに覆される可能性は高いだろう。しかし、この遺伝子組み換え王国、米国につぐモンサント王国と思われたブラジルにこのような判決が出たことの意味は決して消すことはできないと思われる。

以下はブラジルでの記事の抄訳である。(Justiça condena Monsanto por cobrança indevida de royalties 裁判所、モンサントの不当なロイヤルティの請求に有罪判決

モンサント、遺伝子組み換え種子の特許料の徴収に違法判決下る!

ポルトアレグレ ポルトアレグレ地区第15民事法廷のジョバンニ・コンチ判事はモンサントによる遺伝子組み換え大豆へのロイヤルティを課すことを違法として、即刻停止することを命じた。この決定はパッソ・フンド地方組合、セルトン地方組合、サンチアゴ地方組合、ジルア地方組合、アーボレジンニャ地方組合、リオグランジドスル州農業労働者連合(FETAG)によるブラジル・モンサント社およびモンサント・テクノロジー社に対する集団訴訟に応じるものである。

4月4日に発表されたその決定において、小、中、大規模の大豆農家が2012年9月1日からロイヤルティ、技術料を払ったり、補償金を払うことなく、遺伝子組み換え大豆を保存し、再び畑に植え、その収穫物を食料として、あるいは原料として売る権利があることを判事は認めた。コンチはまた2010年9月1日から遺伝子組み換えを育てる生産者が他の小農民たちに保存してある種を譲ったり、交換したりする権利を認めた。

それだけでなく、2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆の売買に対してロイヤルティ、技術料、補償金をモンサントが課すことを禁止した。また判事は2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆生産へのモンサントによる課金を市場総合物価指数で補正し、月1%の利子を加えた上に返還するよう命令した。

ジョバンニ・コンチは日ごとに100万レアルの罰金支払いを条件に、ロイヤルティ、技術料、補償金請求の即刻禁止の差し止めを認めた。また両社は50万レアルの訴訟費用の全額の支払いを命じられた。

ブラジルの森林、 先住民族と日本

A SEED Japan グリーン主流化セミナー ブラジルの森林とわたしたちの生活 で現在のブラジルが抱える問題と日本の関わりについて話をさせていただいた。

身近な次元で何が可能かということまで落とし込んで、話題を提供すべきだったのだけど、ブラジルの問題を包括的にまとめ出すとその現実の厳しさに引きずられてしまって、現実を語ることに終始してしまったと反省している。

もちろん、身近な次元でできることはあるし、それを討論していくためにはさらに1時間くらい必要だったのかもしれない。

たとえば遺伝子組み換えの問題。
南米を浸食している遺伝子組み換え大豆は、社会を蝕み、環境を蝕み、人の健康を蝕んでいる。これをブラジル人社会の側だけで変えようと思っても非常に困難。買い手がいっぱいいる以上、さらなる拡大を防ぐことは難しい。その遺伝子組み換えは北での家畜の餌やバイオ燃料になっている。日本の商社もどんどん輸入を拡大している。

遺伝子組み換え大豆で育った家畜の肉は実際に危険であると思う。カナダで遺伝子組み換えの飼料で育った肉を食べた妊娠中の女性93%の血液からBt 毒物(Cry1Ab)という遺伝子組み換え作物が作り出す殺虫性の毒が検出されたという研究が昨年発表されている。この場合はBt遺伝子組み換えトウモロコシのケース(Bt toxin found in human blood is not harmless)。

害虫には毒となるタンパクを作るように組み替えられたものなのだが、人間の腸では破壊されてしまい、体外に排出されるから安全と説明されていた。遺伝子組み換え大豆の場合にも残留除草剤の影響に関する懸念は高まっている。そうした肉を食べることは食べる側の健康被害の可能性を拡大し、さらに南北米大陸での遺伝子組み換え穀物の生産を支えることになる。

どうせ肉を食べるなら安全な飼料を使っている肉にすべきだし、遺伝子組み換え飼料の市場にブレーキをかけない限り、遺伝子組み換え作物の耕作の拡大を止めることは難しい。だから十分に意味のある試みになる。

そうしたことをやっていくことも森林を守る取り組みの1つだと思う。

さらにブラジル現地に行けば、魅力のある運動をやっている人たちに直接会うことができる。そうした人たちとつながっていくことで個々ばらばらであれば不可能な新しい社会を作る道が見つかるだろうと信じている。

Rio+20の機会を活用して、そうした可能性をぜひ見つけてきてほしい。

行けない人(自分も含め)にもどんな可能性があるか、これから模索していきたいと思う。

遺伝子組み換え大豆に追い詰められる南米先住民族 ブラジルを中心に

PARC先住民族チャンネル】オープン記念セミナー <脱成長・脱原発の時代と先住民族の暮らし> 2012年1月21日 アジア太平洋資料センター(PARC)で遺伝子組み換えと南米の先住民族の問題について話させていただいた。

同時に上映させてもらったビデオ、Killing Fields (Ecologist Film Unit / Friends of the Earth、日本語字幕GreenTV) 第一幕第2幕ビデオの方はヨーロッパから見た遺伝子組み換えが主題で、特に第2幕の最後の方はかなり主題から逸れてしまうのだけど、日本語の字幕の入ったビデオがほとんどないので、これを使わせてもらった。

急激な遺伝子組み換え大豆栽培の増加によって南米の先住民族や自然が痛めつけられている。日本もまたそれに無関係ではない。

PARC先住民族チャンネル

曲がり角にきたブラジル

 急激な経済成長を続けるブラジル。その姿の激変を10年前に誰が想像できただろうか?かつての債務大国は今やアフリカ開発のリーダーになりつつあり、開発援助国に変身した。かつては石油輸入国。今や、プレソルト層という深い地層からの海底油田開発で一挙に巨大産油国になろうとしている。製糖産業とともに衰退すると思われていたサトウキビ農園は今や遺伝子組み換えを駆使したバイオ燃料を世界に輸出する生産拠点になろうとしている。

 外交的にも米国との関係を保ちつつも、イラン外交やアフリカ外交では独自性を見せ、エイズ対策や反飢餓政策では発展途上国のリーダーの1つになった。

 国内の反貧困政策では家族支援プログラムを実施。乳幼児死亡率を激減させ、貧困層の生活向上を成功させており、支持率は今年5月の段階で70%を超えている。任期満了が近い政権でこのような高い支持率を得ている政権はまれではないだろうか?

深刻化する環境問題、地方の搾取

 しかし、この高い支持率と経済成長の陰で、深刻な問題が進行しつつある。それは都市から離れた地方から見ればよりくっきり見えてくる。

 2つの問題を挙げてみよう。1つはベロモンチダム開発、もう1つは森林法の改訂である。前者は東アマゾンの奥地に世界第3位となる巨大ダムと水力発電所を作るという30年前の軍事独裁政権時代に作られた計画だが、先住民族の強い反対のもと、建設は阻止されてきた。1989年にはスティングと先住民族の世界的な反対運動にまで発展している。 

 ブラジルでは大規模停電が頻繁に起き、成長を支えるためと称して大規模な発電計画が出されている。ベロモンチダムはその目玉。ベロモンチダム計画の有効性には専門家からも疑義が表明され、映画『アバター』の監督ジェームズ・キャメロンもベロモンチダム反対運動に参加。それにも関わらずルラ政権はダム建設を強行する構えだ。建設が強行されれば、それでなくとも破壊の進む東アマゾンに大きな影響を与え、先住民族の生存を危うくすることは避けられないとみられている。しかも、それを進めるのが軍事独裁政権や反動地主層ではなく、労働者党政権なのである。

アマゾン森林を危機においやる森林法改訂

 さらに森林法改訂である。1965年に制定された森林法は水源などの保護林の規定を持ち、これまでブラジルの森林を開発から守る憲法のような存在であった。この森林法の規定を大幅に緩和する改訂案が昨年出され、今年の7月に委員会通過。この改訂が利するのはアグリビジネスだけだと、MST(土地なし地方労働者運動)や環境団体、先住民族の支援団体をはじめとするNGOは連携して反対運動を展開したが、この法案を提案したのはなんとブラジル共産党(PCdoB。もう1つのブラジル共産党PCBは反対)。労働者党は党としては反対の立場を取ったが、議会をコントロールする大地主層に押し切られてしまった。

 アマゾンの破壊は大きな気候変動をもたらす危険があり、この森林法改訂は地球大に大きな影響を与える可能性がある。

 今年10月、ブラジルは大統領選を含む総選挙がある。しかし、ベロモンチダムの問題や森林法改訂の問題は争点になりにくい。先住民族は2億近いブラジル人口の20万〜30万を占めるにすぎず、これまで彼らと共にいた労働者党政権は現在は敵対的。森林破壊で脅威にさらされる地方労働者や小農民の声もまた届きにくい。先住民族や森林保護を掲げる緑の党で元労働者党政権環境相マリーナ・シウバ大統領候補は労働者党の候補に大きく離されている。労働者党政権の実現で世界的に注目されたブラジルの民衆運動は大きな難問にぶちあたっている。

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