培養肉がもたらすモノカルチャー農業

 先日、一見エコに見える培養肉がいかに環境破壊につながるか、特に遺伝子組み換え技術によって支えられているかを指摘した(1)。動物の命を奪わない培養肉には期待を持っている方もおられたと思う。でも残念ながら、生態系の循環に位置づけられない培養肉は決して選ぶべき方法ではない。

 「いや、遺伝子組み換え技術を使わない培養肉だってあるじゃないか?」と言われるかもしれない。たとえばスイスのMIRAI Foodsは遺伝子組み換えしない培養肉を作ると掲げて注目を集めている。その説明記事にも遺伝子組み換え技術を使わないきわめて少数の培養肉企業の1つと書かれている(2)。

 それではMIRAI Foodsのような培養肉であればOKだろうか? 残念ながらそれもNGだろう。というのも結局はその培養をどう支えるか、全体のシステムが維持可能にならないからだ。現在、家畜の飼料は南北米大陸で作られる大豆やトウモロコシに依存している。培養肉を育てる栄養はどのように作るだろうか? 地域産の農産物? いや、やはり同様に南北米大陸やアジア、アフリカの農地で大規模に栽培する単一穀物に依存することにならざるをえないだろう。そして、これこそが現在の気候変動や生物大量絶滅の大きな要因となっている。

 農地は食を作る田畑ではなくなり、食料工場への原料供給場に変わる。そんな広大な原料供給場を、あなたの地域に作ることを想像してみてほしい。そこには農家はもういない。農薬を多用し、ドローンや大型機械だらけで人のいない地域に変わっていくだろう。そんな社会に住むことができる人はほとんどいない。そしてこのシステムは極少数の企業が知的所有権で独占的に垂直統合する。自立した農家も消費者もいない、そんな社会になっていく。それが未来像になるとしたらどうだろう?
 
 それならばどんな代替策があるだろうか? 動物の肉は避けたいということであれば環境に配慮されて地域で生産された大豆などから植物ベースの食品が作れるだろう(和食にはすでにいっぱいあるはずだし、新しい取り組みも続々と出ている)。動物性の肉は量的には限られることになるが、自然な循環を生かして作ることが可能である。そうした畜産であれば、多様な廃棄食も活用することも可能で、単一穀物に依存する必要はない小規模畜産は地域循環、世界の生態系を守る方策にもなりうる。そしてその生産に関わる人びとはみな自立性を保ちうる。社会も健全になる。
 
 しかし、培養肉、培養卵のスタートアップ企業への投資は過熱している。遺伝子操作した酵母菌を発酵させて代替卵タンパク質を作る米企業に注目が集まる(3)。明らかに遺伝子組み換え食品なので、認可には至っていないと思うが、こうした代替卵タンパクを使った加工食品が出現する可能性は十分ある。
 
 鳥インフルエンザはいまだ収まらない(4)。今日、今シーズン国内40例目が確認された。今の畜産が続けばより脅威は高まるだろう。米国では禁止運動が活発になっているが、日本でも超過密飼育を規制していくことが必要だ。超過密飼育の卵、鶏肉を買わないというのはその第一歩となる。買う前にどんな状態で育てられたものなのか、確認することが大事になる。
 日本の卵の消費量は世界第2位というから、わたしたちがどんな卵を選択するか、ということは市場に大きな影響を与ええるはず。

(1) 培養肉について https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/4949722125054578

(2) Cultured Meat Takes Off in Switzerland with $2.4 million for MIRAI FOODS

Cultured Meat Takes Off in Switzerland with $2.4 million for MIRAI FOODS

(3) 分子レベルでは同一、精密発酵企業Clara Foodsが開発するチキンフリーの代替卵

分子レベルでは同一、精密発酵企業Clara Foodsが開発するチキンフリーの代替卵

(4) 宮崎県における高病原性鳥インフルエンザの疑似患畜の確認(国内40例目)及び「農林水産省鳥インフルエンザ防疫対策本部」の 持ち回り開催について
https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/210131.html

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