みどりの食料システム戦略成立:議論は尽くせたか?

 「みどりの食料システム戦略」を支える「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案」、21日に参議院農水委員会で可決、そして22日本会議で可決。附帯決議も含めてすべて全会一致。有機農業推進が政策となったことは重要だが、果たして実効ある政策となっているか、それに向けた審議はされたかというと大いに疑問を呈さざるをえない。 

  1. 国内における食料生産の危機的状況への対策の欠如…農家の数は急激に減っている。生産に力を入れる上で必要な施策の欠如ゆえ、続けられず離農せざるをえない人が増え、新規参入も阻んでいる。これでは食料危機も必須とならざるをえないのに、十分な対策は出ていない。農家の所得をどう確保するか、施策はいろいろあるはずだが、無策のままどころか、水田活用交付金の打ち切りに見られるようにさらに悪くなっている。米国の食料政策の補完政策を超えようとしない政策のままで、これでは抜本的な改革にはならない。
  2. 種子生産促進への無策…1にも関わるが、タネから始まるのに、タネの国内生産の確保、促進については無策である。野菜のタネの9割は海外で作られているが、それが今後継続できるかは保証はない。国内で生産するためには市場原理ではなく、政策が不可欠になるが、無策のまま。
  3. 有機種子の生産・流通促進…有機農業は有機のタネから始まるのに、日本ではまったくその整備がされていない。有機農業を促進すると言っていながら、その源となるものがタネであるのに、そのタネが得られない。在来種のタネで有名な野口種苗には注文が殺到してしまい、今、インターネットショップは閉店を余儀なくされている。こうした現実で、どうやって有機農業を促進できるのか?
  4. 世界食料危機への対策の欠如…ウクライナの事態を受けて、世界では食料危機が始まりつつある。単に小麦などの穀物貿易だけの問題ではなく、化学肥料の供給は今後、深刻な状況に陥る。この問題は一時的な問題ではないので、化学肥料への依存を急速に減らしていく政策転換が必要な事態になっている。にも関わらず、2050年までに30%減のまま。果たしてそもそも来年必要量が確保できるか、すらおぼつかないのに。
  5. 「イノベーション」、工業的農業への依存強…そもそも、現在の世界の危機をもたらす原因を作っているのが工業的農業、企業型農業で、世界ではだからこそ、工業的・企業型農業に変わる小農を基盤とするアグロエコロジーの促進に向けた議論がなされているのに、その基本的な理解がない。「ゲノム編集」などの遺伝子操作やビッグデータ企業に支配されかねない問題が残ったまま

 以降、まだまだ問題は挙げられるだろう。最大の問題は参考人質疑こそあったが審議は衆参とも2回で、とてもこの世界食料危機の中での審議とは思えない緊張を欠いたものとなってしまったことだ。重要な指摘は野党議員からいくつもされてはいるのだが、政府側はこれまでの公式見解をオーム返しするだけ。それを超えた論争にできなかったのは本当に悔やまれる。
 
 問われるべきはこれまでの日本の食・農の政策を根本から検討することではなかったか? なぜ、食料自給率が先進国ではありえないカロリーベース37%になってしまうのか、子どもの健康にも赤信号が灯り始めている。さらに世界食料危機が始まろうとしている中であるからこそ、真剣に議論すべき機会ではなかったか?
 
 早くも国会は参議院選挙モード一色になりつつある。でも、この危機を放り出して、選挙などありえない。少なくともこの食料危機対策に対しては国会で今からでも対策を協議すべきだ。

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