「みどりの食料システム戦略」パブコメ締切迫る

 「みどりの食料システム戦略」を進めるために今国会で成立した「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」に関わる施行令、つまり、法律を受けて、農水省がこの政策を実施する省令に関するパブコメの締め切りが迫ってきた(5月31日)(1)。
  「みどりの食料システム戦略」についてはさまざまな文脈で言うべきことは多々ある。工業的農業によって引き起こされてきた問題の解決策として国連含む各国政府がアグロエコロジーの採用に踏み切っている、その必然性を果たして、日本政府はどう受け取っているのか? 輸出だけを日本農業の発展の活路に限定しているかのような政策が戦後、続いているけれども、その輸出でも有機でなければ売れない時代になってきたから有機化をちょっと進めましょう的な理解に留まっているように思えてならない。そればかりか、「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー、フードテックの推進という相変わらずの工業型・企業型農業推進の方が熱心で、結局、有機農業・アグロエコロジーの推進政策としては落第と言わざるを得ない。それどころか5月24日に農水省は「農林水産研究イノベーション戦略2022」を策定したのだが、農業のバイオテクノロジー化のためのアグリバイオ拠点を設けたりAI化、ロボット導入などに力点が置かれ、有機農業を科学的にも探求する世界共通の目標となっているアグロエコロジーに関しては言及がなんとゼロ(2)。有機農業推進も地域の有機農家におんぶにだっこで、農水省としてやるべきことに耳を傾けていないとしかいいようがない。
 看板だけで中身がない戦略で、中身があるとしたらバイオテクノロジーや企業型農業・工業型農業の方だけ。離農が増え、農業消滅すら危惧されるのに、農業に関わる企業の支援には厚いが、肝心な農家支援にはかなり冷淡な政策となっているのではそもそも成功はおぼつかない。
 
 もっとも外野席から野次を飛ばすだけでは何も変わらないので(かといって翼賛するつもりはないけど)、変えなければならないことに絞って言及してみたい。
 
 当然ながら有機農業を50倍に拡大させるためには有機農業のためのタネの確保から考える必要がある。ところが日本政府は有機農業に必要な有機種苗を作る政策を持っていない。それを国会で追及されると、農水省は農水省のホームページに有機種苗が買える店を紹介している、と返答した。要するに完全に民間任せ。でも、今、有機種苗を育てる担い手は限界状況になっていて、種採りがより困難になっている。そして供給量にも限りがあり、とても50倍にする余力など存在していない。有機の種採りをするには困難が伴うが、それに見合う十分な収入が得られていない。政府は「ホームページで紹介している」というだけであり(果たしてそのページがどれだけ見られているのか、大いに疑問)。そして、在来種のタネを扱うことで知られる野口種苗はタネの注文が増えたために一時オンラインショップを閉鎖せざるをえなかった。有機農業を50倍拡大するというのであれば、こうした種苗店が販売能力を増やせるように、種採りをする人を支援する政策が必要なはずだが、それがない。
 
 国や自治体で有機の種苗を生産する政策を持っていないので、提供される種苗のほとんどは農薬や化学肥料が使われてしまっている。そのため、有機種苗を得るためには、いったん入手した種苗を有機栽培してデトックスしてやらなければならず、有機農家からしたら負担になる。それではその負担を国は援助するのか? それもない。それどころか種苗法を改正して、許諾料を払わなければならなくなるケースまで出てくる。これでは有機農業に二重の負担を課していると言わざるを得ない。
 
 今回の省令でも種苗法への言及は存在するが、それは種苗を使う農家への配慮ではなく、その種苗を売る側への配慮だけ(登録料の減免)なのだ。これはおかしい。有機種苗を提供しないのであれば、せめて有機種苗目的で種採りをする場合には許諾料を免除する、あるいはその種採りに補助金を出す、という政策が不可欠だろう。
 
 少し視角を変えてみたい。今、世界の食のシステムは大きな変革が求められている。戦後、一貫して追求されたグローバルな工業型・企業型農業がもたらした弊害が誰の目にも明らかになってきたからだ。農薬や化学肥料の使用による汚染、生物多様性の激減、土壌崩壊や気候変動の激化、小農離農と大規模化によるフードマイレージの拡大、それに伴う飢餓、栄養不良の拡大、輸送が止まった時の食料不足など枚挙に暇がない。このグローバルな食のシステムからローカルな食のシステムに大きく変えなければ、日本に飢餓がやってくるのはもはや時間の問題になりつつある。
 果たして、この「みどりの食料システム戦略」はそれに対応するものとなりえているか? この戦略の中で、ごく一部で、地域での学校給食の有機化が進められることはできそうだが、それもきわめてわずかな市町村に限られそうで、日本の食料自給率を大幅にアップすることは到底期待できない。
 
 戦後一貫して、米国政府の食料戦略に乗っかってきたこの農業・食料政策を続け、食料自給力は強化しない、農業の発展はひたすら輸出拡大以外にない、という歪な政策を続けてきている。安保世代は「だから政策変更できない」と思考停止するけれども、できないわけはない。この食料危機に対抗する施策を打ち出さずに飢え死しろという政治家がいるだろうか? 奴隷が奴隷であり続けるのは、奴隷でなくなることすら考えなくなるからだ。
 自民党は食料安全保障に関する検討委員会を作り、その提言で肥料の安定確保体制の構築や輸入依存穀物(小麦・大豆・トウモロコシなど)の増産・備蓄強化を盛り込んだ。しかし、小麦を増産しようにも製粉場が地域になければそれは活用できない。肥料安定確保もガソリン補助金のように結局、このままでは扱う企業ばかりが利益を得て、使う側にはそのメリットが得られなくなる可能性が高いのではないだろうか?
 
 食料自給率を上げるためにはやはり地域で実質的に地域の食の循環ができるシステムを地域のステークホルダー参加のもとに作り出していくことが近道だ。その意味でも、地域での取り組みが決定的に重要になる(3)。
 
 現在、そして、これから行われる選挙では、投票だけでなく、投票の次の一歩をぜひ提案し、実現してほしいものだと強く思う。つまり、地域での参加型行政の実現だ。地域の食のシステムを実現するためには生産者、消費者、学校・給食関係者、病院・福祉関係者、食品加工企業、流通企業、栄養士、地域料理研究家、近隣の自治体との連携など多岐にわたる人たちの参加と協力なしには効果的に構築することはできない。これは行政関係者だけで実現できることではない。そうした人たちの参加を可能にする参加型行政の仕組みをなんとしても作り出してほしい。選挙で終わるのではなく、スタートとなる政治に変えてほしい。
 
 現在、進んでいる、あるいはこれから始まる選挙でもぜひそのことを候補者に伝え、1つでも実現してくれることを強く願いたい。
 
 あ、これパブコメを書くという話でした。農水省に言えることは、かなり限定せざるをえないけれども、それぞれの視点から考えて、なんとか31日までに提出してほしいです。
 
 どうぞよろしくお願いいたします。
 
 
(1) 「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律施行令案」等についての意見・情報の募集について
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550003476&Mode=0&fbclid=IwAR0ir01njqFwzqTR5jCxJA78dmq1gkMYNpvYo-gRCZaki9j6LA74PRmKutk

(2) 「農林水産研究イノベーション戦略2022」の策定について
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/press/220524.html

(3) ローカルフード法・条例で地域の食を守る
https://localfood.jp/

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