EUで始まった有機在来種販売合法化

 政府は今の方向が唯一の方向であると言い切るが、本当にそうか? 種子の知的財産権を守るUPOV条約の遵守こそが日本の農業を発展させる唯一の道だとして種苗法も改正してしまったが、UPOV条約を作り出した本家のEUでは、そのUPOVの原則を変える重要な種子政策を2022年1月から実施している。UPOV条約体制下では無視される有機農家の在来種を販売可能とする画期的な転換が行われた。
 種子産業は戦後、多国籍企業による独占が進み、特に今世紀に入ると4つの遺伝子組み換え企業が世界の7割近い種子市場を独占するようになったと言われる。
 この種子市場での原理はDUSという三文字に集約される。D=Distinctness 他と区別されるものであること、U=Uniformity 均一であること、S=Stability 変わらないこと。遺伝的にも均一でなければならず、本来生命が持っている多様性を削ぎ落とさないと市場流通できる種子にならない。そうした種子が大量生産されれば農業生物多様性は一気に奪われてしまう。実際、こうして世界は農業生物多様性を失ってきた。その結果、菌や虫などによる病虫害は深刻化し、農薬がより不可欠になっていってしまう。そして、さらに生物多様性が破壊される。
 
 特にEUは種子の流通に厳しい制約を課してきた。DUSという原則を守らないと種子は販売できず、在来種のタネはDUSとはほど遠いので、売ることが許されない。しかし、その種子では有機農業など自然を生かした農業は困難になる。有機農業の発展が求められる中、この矛盾は大きくなった。そして、ついに2018年4月、EUは政策を大きく転換する。DUSに基づく種子ではない、在来種などの均一ではない多様な種子の販売を認めることにした。それらはOHM(Organic Heterogeneous Material、有機の均一でない資材。フランス語ではMHB)と呼ばれる。そして今年1月からその制度が始まったのだ。
 
 これは日本では注目されないニュースかもしれないけれども、世界に与える影響は大きいだろう。そもそも生物は遺伝的多様性を持ち、だからこそ、その多様さゆえ、環境の変化にも対応できる。多様さを失った種は危うい。気候危機にも、菌病などによる危険にも、遺伝的な多様な種子は強みを発揮する。こうした種子はEUの中ではほんの一部の有機農家、自然農法実践者によって維持されるのみであったが、今後、大きく広がる可能性が出てきたことになる。
 もっとも在来種販売合法化の道は開かれたが、販売には登録が必要で、その手間・負担など、さまざまな問題は存在しうる。
 ブラジルでは2003年の種苗法改定の際に、DUSを基本とする種苗法を在来種には適用してはならないとして、在来種を種苗法の適用除外とすることによって守る政策がスタートしている。イタリアや韓国でも在来種を守る条例作りが積極的に進められており、こうした動きは今後、さらに注目されるべきだろう。
 
 もっとも現在の世界で進んでいる自由貿易協定の中で支配的なのはDUSを唯一の原理とするUPOV条約であり、日本政府もこのDUS一本槍の政策を推し進めている。残念ながら、このDUS以外の多様な地域の種子生産を促進する政策は今国会で成立したみどりの食料システム戦略にも書かれていない。
 
 実際にこの有機の種苗制度を確立することは「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー技術による食のシステムの侵食から農と食を守る上で本質的に重要な柱になるだろう。

Commerce de semences : une offre élargie pour les paysans bio
https://www.infogm.org/7406-commerce-semences-offre-elargie-pour-paysans-bio

EU organic legislation post-2022
https://www.seeds4all.eu/seed-legislation/eu-organic-legislation-post-2022/

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