新たなタネ、食のあり方を模索する世界、無視する日本政府

 未来を先取りして、犠牲を少なくし、より安定した社会を作る。政治を担う人にはそうした姿勢をぜひ持ってもらいたいものだ。ところが日本ではいまだに戦艦大和的な時代錯誤に固執する例がつきない。核エネルギー、石炭発電、「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー、種子法廃止・種苗法改悪に向かう動きもその1つと言えるだろう。

 問題なのはこれらすべてが日本国内問題に留まらないこと。たとえば種苗法改定の前提となっているのはUPOV1991という国際条約で、新品種を育成した者の知的所有権を保護するための国際条約。
 しかし、この国際条約は世界全体がめざすべきものにはなりそうにない。というのも結局、先進国の作った種苗を発展途上国に買わせ、押しつけられる国にとってはむしろ国内の種苗事業が衰え、北の国に支配されることにつながってしまうからだ。そのような制度であるならば、むしろこれは新たな植民地主義的として批判されざるをえないだろう(1)。
 実際にUPOVに加盟していない国の方がむしろ種苗市場は活発であり、世界はUPOVの有効性により懐疑的になってきている(2)。
 
 そもそも現在の世界の食を支える多くの品種は南からやってきた。南の生物多様性のおかげで世界は養われている。しかし、今、北のわずかな品種が世界の農業と食を独占しようとしている。その行く先は圧倒的に少数の企業の利益のために、世界中が搾取されるだけでなく、病虫害などの発生や品種の絶滅に怯えなければならなくなる世界かもしれない。
 この種苗にかかわる問題は特に南の国々に顕著に現れる。でも北でも同じ問題が起きている。北が南に押しつけているのにその北に住む人たちの多くがそのことを知らない。しかし、北の国々でも、品種の多様性が消え、独占は進んでいる。2050年までには生物多様性が激減し、第6期絶滅期に入ると警告されている現在、南の国々の人びとの叫びは北の人びとへのWake up call、警鐘にならなければならない。

 日本政府は世界各国、特にアジア各国にUPOV1991を押しつけている。日本政府によればUPOV1991は種苗産業を発展させ、農業を発展させるための前提条件であり、すべての国が加盟すべきだとして、東アジア植物品種保護フォーラムやTPP、2国間援助・自由貿易協定などを通じて、アジアの国々にUPOV1991へ参加するよう圧力を加えて続けている。外務省や農水省だけでなく、JICAのような他国の援助を支援する立場の機関までがその活動に加わっている(3)。種苗法改定にはこのようなことが背景として存在している。
 UPOV1991に誘われた国々は日本と同様に種苗法を改定して、農家の権利制限を求められる。TPPも米日政府の主張によって、その1つの道具になり、TPP参加国では種苗法改定との闘いが待っている。税金を使って、多くの人の利益にならないことを日本政府はやっていると言わざるを得ない。

 一方、このようなUPOVのようなシステムに代わるものへの模索もすでに始まっている(4)。つまり、農業生物多様性を激減させ、極少数の種子企業に独占させる種子システムではなく、農業生物多様性を復活させ、種子企業の多様化、公的種苗事業の復活、個々の農家の育種能力の向上を可能とする種子のシステム・食のシステムのあり方への模索である。生物多様性の激減を食い止め、気候変動にも耐える、人類の生存にもつながる方向になる。これは日本でもやっていかなければならないもの。世界で始まっているこの動きを受けて日本を変えるにはどれくらいの時間が必要だろうか? まずは世界の動きを学ぶことから始めよう。

(1) TPPの加盟などによって種子が奪われるとして大きな社会問題となっている。メキシコ、チリ、ペルー、タイ、マレーシアなどTPPへの参加を決めた、あるいは参加を検討する国で大きな問題となっている。
 またG8などからの圧力でアフリカでもそのプロセスが進みつつある。

 ガーナでも種苗法改悪が再び戻ってきた。
The Obnoxious Plant Breeders’ Bill Is Back To Parliament!

(2) 種苗市場の発展のためにUPOV1991は不要とする研究報告
Access to Seed Index Shows: Implementation of UPOV 1991 Unnecessary For the Development of a Strong Seed Market

(3) 「我が国としては、今後とも、UPOV事務局と協力して本フォーラムの協力活動及びJICAの技術協力などを通じて、UPOV91年条約への早期の加盟、制度のさらなる充実に向けた取り組みに必要な支援を行っていく所存です」

(4) Registration of farmers’ varieties in SADC

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