秋田県議会が8月21日まで11のテーマに関するパブリックコメントを求めています。そのテーマの1つが「あきたこまちR」への全量転換についてです。この問題についてはすでにいろいろ書いてきたように大きな問題があり、以下のコメントを送ることにしました。秋田県議会のパブリックコメントに関する情報は以下から得ることができます(手紙、ファックス、メール、Webフォームのどれでも送ることができます)。https://pref.akita.gsl-service.net/doc/2018050800035/
「あきたこまちR」への全量転換について秋田県議会へのコメント
東京に住むものですが、ここ数年に渡り、秋田産「あきたこまち」有機玄米を毎日いただいております。「あきたこまちR」への全量転換については反対の立場からその理由を述べます。この問題は秋田県から全国に波及する可能性があり、全国的な問題だと考えます。しかし、秋田県議会の議事録を拝見すると、秋田県側の説明はとても不十分でしたので、今後、秋田県議会が秋田県に以下の件を質していただけますようお願いいたします。
1. カドミウム汚染対策について−地域のカドミウム低減に役立たない
6. 矛盾する「風評被害」論ー秋田県産「あきたこまち」へのダメージ
1. カドミウム汚染対策について−地域のカドミウム低減に役立たない
この「あきたこまちR」が必要とされた背景としてはカドミウム汚染問題があります。カドミウム汚染は人びとの健康に有害であり、その除去に向けた総合的な対策が不可欠であると考えます。未来の世代に秋田県のすべての地域からカドミウム汚染を少なくしていくことは重要で、そのために秋田県が並々ならぬ努力を図られてきたことに敬意を表します。
その努力によってもまだ国際標準からすると高いカドミウム汚染米が出てしまう現状があります。その地域からカドミウム汚染をどうなくすか、ということがまず大きな方針となるべきです。
しかし、ここでカドミウム低吸収性品種である「あきたこまちR」を導入することで、その根本原因である汚染は減っていくでしょうか? その点を検証すべきです。確かにカドミウムを吸収しにくいという点は利点になるかもしれません。でも、それは地域のカドミウムが減ることにつながるでしょうか?
カドミウム汚染の主因は鉱山事業にあります。汚染地域の農家は被害者であり、汚染の責任はありません。でも汚染した企業はその責任をしっかり取ったでしょうか? 結果として、その犠牲は地域の農家に転嫁されていないでしょうか? 十分、被害農家は補償されているでしょうか? 十分な汚染対策は施されたでしょうか? しっかりとした補償を前提とした汚染対策事業は不可欠です。
その財源は汚染した企業が現在存在しないのであれば、国策として鉱山開発を進めた国にも求めることが必要です。「風評被害」とは本来、責任を取るべきものが取らないことに起因して生まれます。その被害を断つためには汚染責任をしっかり取らせることが必要不可欠です。
現在の「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律施行令」では米1kgからカドミウム4mg検出された場合、汚染対策地域に指定され、カドミウムの低減に向けた対策事業が行われます。
もし「あきたこまちR」に全量転換してしまえば、カドミウムを吸わない「あきたこまちR」では汚染が検出されなくなり、事業の対象になりません。その結果、「あきたこまちR」の導入によって、汚染はあるのにも関わらず、汚染対策がまったく行われないことになります。これで県民は安心して生活できるでしょうか?
また、これまでの「あきたこまち」であればカドミウムを吸って高汚染米となって流通に出せないとしても、その土地からのカドミウム低減に役立てました。それもカドミウムを吸わない「あきたこまちR」では期待できません。カドミウムは長く地域に残りますので、地域は汚染されたままになります。
日本においてはカドミウム汚染は43%程度がお米経由とされており、最大の原因となっています。しかし、過半数を超す57%は米以外から来ています。米からの汚染を無くせば終わるものではありません。お米の安全性の確保はもちろんのこと、地域からカドミウム汚染をなくしていく総合的な政策が不可欠となります。
2018年に科研費で行われた研究で「忘れられた我が国最大のカドミウム汚染地─秋田県─における実態調査と保健・医療対策」と題された研究報告(1)があります。それによると、秋田県にはイタイイタイ病患者の存在が確認されており、秋田県は県民を被害から十分守れていない可能性があります。
汚染対策事業も一部の土壌への客土(土の入れ替え)に頼るだけでは本格的な安全な農地に戻すことはできません。ファイトレメディエーション(植物による浄化)に適した作物の耕作などを通じて、その地域からカドミウム汚染を減らしていくことをめざす長期計画を作ることが必要です。
秋田県は今後、しっかりとした実態調査と補償政策、カドミウム低減政策を打ち立てて、県民の健康と命を守る姿勢を打ち出す必要があります。
「あきたこまちR」の導入では汚染地域のカドミウム汚染が減ることにはつながりません。秋田県民が安心して住める秋田県になるよう、県議会には安全な環境を作るための総合的、長期的なビジョンをご議論いただきたいと思います。
2. 「あきたこまちR」の安全性について
秋田県や農水省の関係者は放射線育種がすでに1950年代から使われ始めた歴史の長い手法であり、すでに安全性は確かめられていると言っています。しかし、その断定には2つの問題があります。
まず放射線育種による安全性についての科学的研究は行われておりません。調べるためには、放射線育種による食品を食べた集団と食べなかった集団とに分けて、長期間変化を検証しない限り、安全を確認することはできません。放射線育種由来の食品がどんな健康被害を作ったのか、作らなかったのか、わからない状態のままです。
また、ガンマ線照射による品種改良は効率が悪く、米国も撤退しており、世界のほとんどの施設は閉鎖されており、行っているのは日本くらいだと考えられます。そのため、世界的にも知見は十分得られていないことを考慮する必要があります。
また歴史的に長く放射線育種が行われていると言われていますが、放射線育種による品種のシェアは独占的なものとはなっておらず、日常的にそればかり食べたという経験を誰もしていません。
しかし、「あきたこまちR」に全量転換してしまえば、少なからずの人が毎日、そればかりを食べることになるでしょう。これまで放射線育種食品を毎日主食として食べ続ける経験をした人はいません。ですので、どんな問題が発生するかわかりません。それを考えれば予防原則で放射線育種米を食べないという方針を市民が立てることは十分合理性があります。
ですから、本来、地域住民の安全を守るべき地方行政はその予防原則に則って、行動するのが筋だと思いますが、少なくとも、それを食べるか食べないか、その選択の自由すら市民に与えないことは人権問題とならざるをえません。
また、もう1点、「コシヒカリ環1号」は従来の放射線育種とは異なる重イオンビーム照射によって作られた品種であり、従来のガンマ線よりもはるかに強い破壊力を植物のDNAに与え、その二重鎖を破壊するものです。そのため、従来の放射線育種とは違う検証が必要です。この分野の知見もほとんど得られていません。ですので、今回のケースは古くから行っている方法であるということはできない、ということになります。
現実には重イオンビーム照射によって「コシヒカリ環1号」のOsNramp5という遺伝子の1塩基を破壊したとしています。1塩基しか破壊されていないから安全そう、という話にはならず、1塩基破壊されることによってフレームシフトが起こり、これまでにないタンパク質が作られます。それが安全と言いうる科学的検証はまだ見ることができません。
ですので、今回の「あきたこまちR」が安全であると言い切る根拠はどこにも存在していないのが現実です。それを今後、すべての秋田県民、さらには日本列島住民に安全の確証もなく食べさせることの是非は十分議論されたでしょうか?
3. 「コシヒカリ環1号」と「あきたこまちR」について
秋田県職員から「コシヒカリ環1号」は放射線育種だけれども、「あきたこまちR」はそうではない、という説明を受けました。しかし、この説明は受け入れることはできません。
「あきたこまちR」は「コシヒカリ環1号」が重イオンビーム照射によって破壊された遺伝子OsNramp5を受け継ぐように戻し交配しています。つまり、同じOsNramp5を持つ点において、「コシヒカリ環1号」と「あきたこまちR」は、それぞれがコシヒカリ、あきたこまちの性格を持つという違いはあるにせよ、放射線育種された遺伝子を持つ点において、まったく同等品です。つまり「あきたこまちR」のOsNramp5遺伝子は放射線育種によって作られたわけですから、「あきたこまちR」を放射線育種でないとするのは科学的な説明とは呼べません。
もし、「あきたこまちR」は放射線育種でないとして、その来歴を消してしまうのであれば、戻し交配しさえすれば、かつての遺伝子破壊はなかったことにできることになってしまいます。遺伝子組み換え作物でも戻し交配すれば遺伝子組み換えでない、と言えるでしょうか? この言い方は明らかに非科学的で、人を騙す方法といわざるをえず、今後はやめていただきたいです。
「あきたこまちR」が放射線育種の後代交配種であることは事実であり、小手先の言い換えで、ごまかしせずに、しっかりと事実を伝えるように県をご指導ください。
4. 重イオンビームで破壊された遺伝子の影響について
重イオンビーム照射によって破壊されたOsNramp5という遺伝子はカドミウムの吸収に関わっていた遺伝子だったため、これが破壊されたことで「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」はカドミウムの吸収がほとんどされないという結果になります。しかし、1つの遺伝子は多数の機能を持つケースが多く、まだ人類はその機能のすべてをつかんでいるわけではありません。
このOsNramp5がマンガンの吸収にも関わっており、それを破壊してしまったことで、「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」はマンガンを十分吸収できないため、ごま葉枯病などになりやすいとされます。これはこうした品種を栽培する農家に新たな負担となることが考えられます。
マンガンは稲の成長や子どもの成長にも欠かせないミネラルで、それが不足するとさまざまな病気の原因になりえます。毎日食べる主食でミネラル不足となれば、その不足を補うことはそう簡単ではなく、サプリメントを買えない家庭の子どもは発育が大幅に劣るという格差を生み出すことになってしまったら、大きな問題になるでしょう。
そして、まだこのOsNramp5が現在はまだつかめていない他の重要な機能を持っている可能性も否定できません。そのため気候変動が激化する現在、このOsNramp5が破壊されてしまったことで対応できなくなる可能性は否定できません。急な気候の変化に耐えられないことがわかったとしても、全量転換してしまえば、元に戻すことはきわめて困難になり、食料危機を招く事態も想定できます。その事態が起きてから「想定外だった」と弁解することは許されないはずです。
秋田県は到底負いかねる責任を負うことにならないでしょうか? どう責任取ることができるでしょうか?
5. 消費者の知る権利、農家の選択の権利
このような性格を持つ、従来とは異なるお米が作られようとしていることを、多くの消費者はまだ知りません。開発側の農水省や秋田県が積極的に情報公開はしていないですし、マスメディアも報道していませんのですから当然でしょう。
しかも、消費者には放射線育種品種なのかどうかを知る術がありません。「あきたこまちR」は従来の「あきたこまち」という銘柄名で売られる方針だからです。
これは消費者の知る権利を踏みにじるものであり、またその十分な情報開示をしない全量転換の決定プロセスはまったく受け入れることができないと言わざるをえません。
また農家にとっても「あきたこまちR」が放射線育種であることは伝えられていないので、このままでは多くの農家が単に新しい「あきたこまち」として栽培することになってしまうでしょう。そして全量転換にしてしまうということは実質的に農家にも選択の自由を奪うことになります。
まず、これまでの一方的な秋田県の決定を白紙に戻し、秋田県議会で今後のプロセスをどうすべきか、再度審議し、農家、消費者にしっかりと情報を知らせた上で、その政策のあり方をもう一度、検討しなおすことが不可欠です。
6. 矛盾する「風評被害」論ー秋田県産「あきたこまち」へのダメージ
秋田県は「あきたこまちR」の全量転換にする理由を「風評被害」対策と説明しています。つまり、特定の地域だけ「あきたこまちR」を栽培すればそれがカドミウム汚染地であるかのように取られてしまう、あるいは従来の「あきたこまち」のカドミウム残留量が高いかのように取られてしまう、だから県内すべてで「あきたこまちR」に全量転換しなければならない、という話でした。
しかし、この理屈で考えるのであれば、日本全体で一斉にカドミウム低吸収性品種に代わるのでなければ、秋田産米への「風評被害」が生まれてしまうことになるはずです。その意味では今回の2025年に秋田県だけ「あきたこまちR」に一気に全量転換させるというのはあまりに拙速すぎることになります。
その結果、これまで「あきたこまち」を買ってきた人は秋田産ではない「あきたこまち」を求めるようになるかもしれません。そうなれば秋田の農業に対する大きなダメージになってしまいます。その点でも2025年の全量転換は一度、止めることが必要です。
また、日本全体で転換について合意ができたとしても、世界全体で見れば、こんな放射線育種米を作っているのは日本のみというのが現実であり、日本全体に対する「風評被害」を止めるために世界でも放射線育種米を育てさせるということは不可能であり、日本産米は忌避され、農産物輸出にも影響を与えてしまう可能性があります。さらにいわゆるインバウンド、海外からの日本への観光にも影響を与える可能性があります。ですので、この「風評被害」論は到底、成立しがたく、これを根拠に全量転換するというのは説得力がないのが現実だと思います。
7. 自家採種禁止について
「あきたこまちR」は自家採種が認められません。農水省などは自家採種をやっている農家は少ないとして、影響はないと考えているのかもしれません。しかし、自家採種は日本の農業にとって不可欠な技術と言わざるをえません。
農業の基本をなすのは種であり苗です。戦後、手間がかかる種採りをする農家が減っていったことは事実でしょう。しかし、その基本技術であるがゆえに、農業技術の真価が発揮される分野でもあり、また地域の多様性のある種苗を守っていく上でも、鍵となる活動でもあります。
実際に現在、世界で地域の農業が発展しているところを見ると、そこでは地方自治体などが積極的に関与して、在来種の種採りを奨励し、種採り農家に補助金を出し、地域に合った種苗を豊富に確保できていることがその地域の経済発展の背景にあります(イタリアや韓国、ブラジルなど)。つまり、自家採種は農業の発展、特に地域の有機農業の発展では欠かすことができないものです。
「あきたこまち」をはじめとする品種を自家採種不可能な品種に全量転換してしまうということは秋田県の農業の発展を困難にする方策であるといわざるをえません。
8. 今後激化する環境に耐えられるか?
「あきたこまちR」ではOsNramp5という稲の生存にとって重要な役割を果たしていると考えられる遺伝子が損なわれています。それによってカドミウムが抑制できることは利点とも考えられますが、同時に1つの遺伝子が持つ機能は1つのみではなく、その遺伝子を損なうことによって、その機能が失われてしまい、その結果、今後の激化する環境変化に耐えられなくなる可能性があります。
実際に、すでにこの遺伝子欠損に伴い、マンガンの吸収能力に大きな影響を受けており、通常の「あきたこまち」に比べ、マンガンを吸収する能力は3分の1ほどの減っており、そのため農水省や秋田県はマンガンの少ない水田ではマンガンを余計に足してやる必要があるとしています。
この遺伝子がマンガン吸収以外にも他の機能を持っていることはおそらく考えておくべきでしょう。残念ながら現在の科学をもってしても、遺伝子解析まではできても、その遺伝子が持つ機能までは知ることはできません。この遺伝子が破壊されているがゆえに病気にやられてしまう可能性はごま葉枯病の他にもありえます。
もし、そのお米が市場のシェアの一部に留まるのであれば大きな問題にはならないかもしれません(交雑によってその影響が広がることはありえるのでまったく問題にならないとは言えませんが)。しかし、これが全量転換となると話は大幅に変わります。収穫が激減してしまう事態が起きてから、元に戻そうと思っても、全量転換後に戻すのは難しく、できるとしても時間がかかります。
この転換ゆえに収穫が激減して、秋田県の農家がやっていけなくなった、あるいは日本全体にまで広がってしまえば、日本中で食料危機に見舞われることも想定すべきでしょう。もしそうなった時、この決定をした責任者は責任をどう取れるでしょうか?
実際に心配になるデータがあります。この「あきたこまちR」の親である「コシヒカリ環1号」を日本で最初に採用したのは石川県でした。石川県は2020年に「コシヒカリ環1号」を産地品種銘柄に指定します。しかし、その生産は年々減り続け、昨年は生産が確認できない状況になりました。埼玉県でも「コシヒカリ環1号」の試験栽培は収量が低かったために、採用は進んでいないようです(2)。秋田県の試験場ではいい結果が出たから採用となったと思いますが、環境変化が大幅に進んだ場合、うまくいかなくなる可能性は十分考えられます。
そのような品種に全量転換してしまうということはあまりにリスクが大きすぎると考えます。
9. 有機農業への影響について
有機農業では放射線の使用は基本的に認められないと考えるべきです。現在でも食品の殺菌目的や発芽防止で放射線を使用することは禁止されており、EUでは放射線育種による種苗の使用は有機認定では排除されており、タネから流通まで放射線を使うことはできません。
しかし、農水省や秋田県は日本では放射線育種米であっても有機認証可能だという姿勢を見せています。そして、日本が有機農作物と認めてしまえば、有機同等性の確認をしている国に対してはそのまま有機食品として輸出することも可能だとして、EUにも輸出が可能としていますが、この理屈が世界で通るとは到底思えません。
というのも、有機認証というのは究極的には有機食品を食べたいと考える消費者が受け入れるかどうかにかかっているからです。なぜ、有機食品を選ぶのでしょう? より安全な食品を求めているからでしょう。もし、日本の有機が安全性の確認できない技術、放射線育種を使っているということを知ったら、消費者の側が日本の有機農産物を回避することにつながる可能性が十分あります。ルール上は農水省が言う通り、有機産品として認められることが通ったとしても、実際には市場を失うことになるでしょう。
日本の消費者も日本の有機認証に対する信頼を失い、海外からは日本の有機は信頼できないとして、日本の有機産業全体に信頼が失われる可能性もありえます。この放射線育種米を有機認証で認めることはこのように日本の有機農業そのものに大きな打撃を与える可能性があります。
またこのような放射線育種米を全量転換してしまえば、本当の意味の有機農業は秋田県では実質、稲作では不可能となり、みどりの食料システム戦略で有機農業の奨励を全国的に行っている現在、大きなハンディキャップを秋田県の農家は背負うことになります。
10. 「コシヒカリ環1号」系だけが唯一の道ではない
「あきたこまちRの問題点はわかったけれども、一方で低カドミウム対策米の必要性はある。どうすればいいのか」と思われるかもしれません。しかし、放射線育種を使わなくても解決策は存在します。
インドのケララ州で3000年前から栽培されていると言われるPokkaliという在来種の稲はケララ州の高い塩分濃度を持つ水田でも生きていくように自然の中で進化した品種です。このPokkaliは「あきたこまちR」では破壊されてしまったOsNramp5という遺伝子を重複してもっており、高い塩分濃度に対してミネラルの吸収をコントロールする能力を得たと考えられます。同じ遺伝子を重複して持つというのは、環境に対応するための進化の過程でよく見られる自然なプロセスです。このPokkaliはこの遺伝子を重複してもつことによって、マンガンもカドミウムも吸収します。しかし、カドミウムは根の液胞に留まり、種にはあまり行かない特性を持っているため、お米の方はカドミウムが比較的高い地帯であっても安全性を確保できます。
このPokkaliはカドミウムを根に蓄えるので、安全な米を得るだけでなく、収穫後、その根を処分することで、水田のカドミウムを除去することも実現することができます。「あきたこまちR」がほとんどカドミウムを吸収しないので高カドミウム汚染地域でも栽培可能となりますが、それに対して、Pokkaliは6割減ということで、高カドミウム汚染地域ではお米は食用にすることは難しくなるかもしれません。しかし、そのような地域ではやはりカドミウム除去を優先すべきであり、食用の作物を育てる前に、カドミウム低吸収性品種ではなく、カドミウム高吸収性品種を栽培することでファイトレメディエーションによってその場所におけるカドミウム低減をめざすべきではないかと考えます。
このPokkaliについてはすでに岡山大学でコシヒカリとの交配を試みて、それに成功しており、この例にならえば、秋田県でPokkaliと「あきたこまち」の交配をすることで、「あきたこまちR」では解決できない難問を解決するカドミウム低吸収性品種を作り出すことができます。インドや日本で長く愛された品種を交配させるものの方が多くの人が安心できる品種になるでしょう。有機農業での利用にも問題はありません。新たな問題を作り出す放射線育種に頼る必要はありません(3)。
11. 危険な下水汚泥肥料の使用について
いったん汚染してしまった農地を除染することがいかに困難か、秋田県で担当されている方は深くご存じのことだと思います。しかし、農地をさらに汚染させてしまう可能性が今、高まっています。農水省や国交省が下水汚泥から作った肥料を全国的にプロモーションしているからです。特にウクライナへの侵略戦争によって、化学肥料の原料が高騰し、確保も難しいという状況になってきたことに対して、両省は下水汚泥肥料の増産を全国に働きかけ、その肥料の活用を拡げようとしています。
もちろん、安全な糞尿を肥料に活用することは日本でも江戸時代以来、使われてきた有効な実践です。しかし、下水汚泥となると話は別です。下水汚泥の活用の本場である米国ではこの下水汚泥肥料は大きな問題を作り出しています。なぜなら、下水汚泥には除去が困難なカドミウムをはじめとする重金属や、さらに永遠の化学物質と言われるPFASが入っているからです。PFASは水を弾く特性を持つ化学物質で、フライパンや消火液、服や紙製品など広く使われていますが、自然にはなかなか分解されず、健康被害を引き起こすとして世界では大問題となっていますが、日本では規制がほとんど進んでいません。
そのため下水汚泥を肥料に使えば、PFASとは無縁なはずの農地がPFASによって汚染される可能性が高いです。米国はこの下水汚泥肥料利用の先進地ですが、米国ではすでに800万ヘクタール(日本の農地の約2倍)がすでにPFAS汚染されていると言われています(4)。そして昨年、米国メイン州は下水汚泥を肥料に使うことを禁止しました(5)。それほど深刻な汚染を引き起こしており、いったん汚染された農地の回復方法はまだ見つかっていません。だから汚染させるな、が重要になっているのです。
日本では下水汚泥肥料のカドミウムの基準値が設定されていますし、それよりも低いから大丈夫だと農水省は説明していますが、カドミウムは半減期がなく、生物濃縮し(生物半減期もとても長く)、長期的に蓄積する可能性を考えると、基準以下であるからどんどん使っていいとは言えず、その使用によって農地の汚染が高まる可能性があります。
そしてPFASについては未だ測定方法も基準値も設定されておらず、下水汚泥肥料の中のPFASの値は不明な状況です。
いったん汚染してしまった農地を元に戻すことはとても困難です。地域の有害物質の汚染をさせない政策をしっかりと確立することが重要です。そのために下水汚泥肥料の使用についてはしっかりチェックすることが重要であり、その危険性についても十分告知する必要があると考えます。
結論
「あきたこまちR」の全量転換は秋田県にとって、そして日本にとって取り返しがつかない大きな問題を引き起こす可能性があります。これを実施するメリットをはるかに上回るデメリットがあります。これらのことを総合的に検討すれば、まずはこの全量転換をいったん延期させ、秋田県の地域の有害物質汚染対策政策を今一度、再検討することが必要になると考えます。
参考資料:
(1) 「忘れられた我が国最大のカドミウム汚染地─秋田県─における実態調査と保健・医療対策」
https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-16H05261/16H05261seika/
(2) 埼玉県:試験研究の実施状況
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/83965/3sikenkenkyuu.pdf
(3) 河田昌東さん「放射線照射による品種改良 何が問題か」 学習会報告
https://okseed.jp/news/radiation/entry-179.html
(4) EWG: ‘Forever chemicals’ may taint nearly 20 million cropland acres
(5) Maine bans use of sewage sludge on farms to reduce risk of PFAS poisoning
本末転倒。
土壌を改良してください。
恐ろしいことをしようとしています。
常にあきたこまち を頂いてました これからはいただけません。
それ以上に 全国のお米に広がっていくことが懸念されます。
主食のお米を守ってください。