米国農務省、有機農業転換計画を本格始動

 これまでの化学肥料や農薬に依存した工業型農業から離脱することは急務だ。なぜならこれが様々な多重危機の根幹の主因となっているからだ。気候危機も生物絶滅危機も人の健康危機も、そして食料危機も深く関わっている。すべての状況ですでに待ったなし。だから食料危機を前に「有機農業は棚上げ」という宣伝に対しては警戒しなければならない。逆に今こそ、化学肥料や農薬に依存した農業からの脱却は待ったなしなのだから。そして、世界ではCOVID-19のパンデミック、ウクライナでの戦争を受けて、この必要性を多くの人びとが理解するようになってきた。
 多重危機の中の食料危機
 あの米国でも有機農業への転換計画が始まる。Organic Transition Initiativeがそれで、予算は3億ドル(今日のレートで413億円くらい)(1)。米国としては大きな額ではないが、昨日紹介したFarm to Schoolとも連動して動けば、米国でも一気に有機学校給食が増やせるし、食のシステムを変えるきっかけを作り出すことにつながる可能性があると市民団体は注目する(2)。
 米国でも化学肥料は輸入が前提となっており、それを大幅に減らす必要に迫られているのと同時にそれは気候危機や土壌崩壊を止めることとも密接に関わっている。有機農業、Regenerative Agricultureはまさにさまざまな危機の解決策なのだ。
 
 日本の「みどりの食料システム戦略」との大きな違いは地域にある有機農業の市民団体の協力によって、有機農業の技術習得・研修を可能にしているところではないだろうか。6つの地域で活動する有機農業運動団体と協力して、農家が研修を受けられるようにする。その1つRodale Instituteは長く有機農業の発展のために活動してきた運動団体であり、フルタイムのコンサルタントが14人もいて、研究者や農家とも密接に結びついて、米国の有機農業の発展に貢献している。USDAはRodale Instituteなど6団体を通じて、それぞれの地域の有機農業を強化することに予算を出す。
 
 日本でも有機農業研修できるようになっている、というかもしれない。でも日本の場合は研修の際だけ、講師料を払うというレベルに留まっている。たとえば、千葉県いすみ市や木更津市の有機米学校給食の実現を支援している民間稲作研究所で講師を務めている方たちは多大なエネルギーをその研修につぎ込んでいるが、受け取るのはその講習会の時の講師料に限られる。有機農業を50倍にしていくためにはその研修能力を高めるために民間稲作研究所やそのような活動を行っている団体への支援が必要になるが、それはほとんどないのが現状だ。米国農務省と同様に日本では農水省がその役割を果たさなければならないが、お金は届いていない。
 だから講師の方たちは自らの田畑を抱えながら、ボランティアベースで活動を続けなければならない。最近はあちこちから研修の要請が相次いで届き、負担が高まるばかりなのが現状である。
 さらに民間稲作研究所や有機農業に関わる方々は大学や高校に有機農業の授業もされることが多いと聞くが、それはなんと無報酬。これが日本の現実でもある。お金のためにやっているわけではないとしても、お金がなくなれば生きていけなくなる。活動拡げる余力がないところで限られた人たちが奮闘しているのが日本の悲しい現状なのだ。
 経験を積み重ねた方々が半農半講師として活躍できて、有機農業を牽引できる状況を作り出せてこそ、この重要な転換が可能になる。そのためには支援が不可欠だ。
 
 米国も大変な状況にある。有機産品市場は急激に年々拡大しているにも関わらず、有機農家の数は大幅に減り、2008年以降71%も減少している。COVID-19やウクライナでの戦争でようやく米国政府も重い腰を上げたというところだろうか?
 米国政府は歴史的に有機農業振興の必要を低く見積もりすぎていた。多くの米国の農家が有機への移行を希望していても、市場、移行のための資金、技術研修などすべての面で大きなハードルが存在してきた。今回の米国の計画はそれを取り払おうというものだが、一時的なものであってはならず、さらに研究への投資も必要という声がある(3)。

 米国は遺伝子組み換え企業、さらには「ゲノム編集」や合成生物学による合成食品を次から次へと世界に送り出し、それによって世界に大きな被害を生み出している最悪の国と言わざるを得ない国だが、一方で、もう一方の道もしっかりやるしたたかさを持っていることも見逃せない。日本はせっかく「みどりの食料システム戦略」を打ち出したのはいいのだが、工業型農業と輸出型農業推進が目立ち、肝心な地域での有機農業、食のシステム作りの方は米国の政策と比べても見劣りしてしまう。
 
 現在の「みどりの食料システム戦略」を現在の危機の対応できるものにしていくためにも、日本政府は地域での農家から農家への有機農業研修、研究支援に本腰を入れるべきだろう。日本でも既存の各地の有機農業団体が今後、重要な役割を担うことは間違いなく、しっかりと支援することが不可欠だと思う。でなければ日本だけが置き去りになることは確実に思える。
 
(1) 米国農務省のプレスリリース 8月22日
USDA to Invest up to $300 million in New Organic Transition Initiative
https://www.usda.gov/media/press-releases/2022/08/22/usda-invest-300-million-new-organic-transition-initiative

(2) Organic Transition Programs Can Transform Food Systems
https://www.nrdc.org/experts/allison-johnson/organic-transition-programs-can-transform-food-systems

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