「みどりの食料システム戦略」パブコメ

時間がなくて例によって書き殴りで、模範的なコメントからはほど遠いけれども出さないよりは、ということで「みどりの食料システム戦略」に関するパブコメに書いた文章をさらします。


 「みどりの食料システム戦略」において有機農業を大幅に拡大するという意欲的な方針を立てられたことに関して敬意を表します。この戦略については多岐にわたり、指摘したいことがありますが、論点を絞って書きます。
 
 まず、有機農業は言うまでもなくタネから始まります。有機農業に適したタネを確保することは現在、世界で大きな動きとなっています。世界最大の有機農家数を誇るインドは2001年に植物品種農民の権利の保護のための法律を策定しており、同様に有機農業の発展著しいブラジルは2003年に種苗法に在来種に関する条項を策定し、2013年以降のアグロエコロジー有機農業生産促進政策においてさらに積極的に有機農業に適した在来種のタネ採りとその流通を支援する政策を打ち出しています。さらにはイタリアで地方自治体を基盤とする在来種支援政策が成果を積み重ね、学校給食の有機化などで注目される韓国も地方自治体を中心に在来種の支援政策が着実に有機農業の発展を後押ししています。米国ですら在来種保全・活用法案が提案される状況に至っています。
 
 しかし、一方、日本は有機に限らず、種採り農家は苦境を強いられています。手間は多く、収入は限られ、跡取りがいないために、高齢化している種採り農家が引退したら、日本の地域の在来種は絶滅してしまう危機にあると言わざるをえないと思います。政府の支援策はないも同然であり、前述した有機先進国と比べ、その状況たるや天と地の違いがあります。
 
 タネがなくてどうやって有機農業を発展させられるでしょうか? タネには成育された経験が蓄積されます。化学肥料と農薬で育てられたタネは化学肥料を待ち続けるでしょう。そのタネでどうやって有機農業を発展させられるでしょうか? 最初から日本の農家は他の国に比べハンディキャップを担わされた状態で始めなければならないことになります。EUではそうしたタネで作った農産物は有機とはみなされません。
 
 国会においても、この問題が追及されましたが、金子農林大臣は農水省のホームページで有機種子を販売している民間業者を紹介している、と答弁されました。しかし、その販売店の1つである野口種苗は一時、注文殺到によってオンラインショップを閉鎖せざるをえない状況に陥りました。現在、供給できる在来種の種子には限りがあります。このような状況でどうやって生産を50倍近くに増やせるのでしょうか? 
 種採り農家が新たに生まれていくためには上述の国々のような支援政策が不可欠であると考えますが、農水省の省令には一言たりともそれに向けた姿勢を見出すことができませんでした。唯一の言及は種苗法に関して、その登録を支援するものでした。((3)種苗法の出願料及び登録料の軽減手続等)。これは品種登録する業者を支援するもので、そのタネを使う側の農家を支援するものではありません。政府が有機農業に適した種苗を提供しないため、有機農家が取れる自衛策はそうした種苗を一度、有機栽培して自家増殖することで有機の種苗を得る方法です。しかし、政府は自家増殖を許諾制とする種苗法改正を行ってしまいました。これでは有機農業は二重にハンディキャップを背負わされた状態になります。有機種苗が提供されない、そしてその自家生産にも負担を強いる、これでは有機農業は発展できません。
 有機種苗を得るための自家増殖は許諾を不要とするなどの措置が不可欠ですが、それにはまったく言及がありません。有機農業に適した種苗の生産や流通に政府が支援策を打ち出さない限り、この事態は抜本的に変えることは難しいと言わざるをえません。
 
 また有機農業では「ゲノム編集」などの遺伝子操作種苗を使うことは許されませんが、農水省では「ゲノム編集」種苗に表示を義務付けしていないため、有機農家は知らないうちに「ゲノム編集」種苗を用いてしまいかねません。これは政策によって生み出されることが当然想定されるものです。このような事態を生み出してしまえば、その責任は農水省にあると言わざるをえません。
 
 種苗に「ゲノム編集」などの遺伝子操作の有無を表示することを義務化することはこの戦略の成功に不可欠なことにならざるをえません。早急に対処することを求めます。
 
 農業の基本のキといわざるをえないタネに関する基本政策が抜けているこの戦略には大きな問題があるといわざるをえず、早急に対策を立てる必要があります。

 話は変わりますが、今、国連を含め、世界各国で共通となっているのがアグロエコロジーの推進・普及です。食料問題だけでなく、健康問題、気候危機対処を含む環境問題の解決策として、その促進が世界共通課題となっていることは周知の通りです。ところが不思議なことに、この「みどりの食料システム戦略」の中では世界共通の目標となっているアグロエコロジーが登場しません。
 アグロエコロジーは同時に科学であり、そして農業実践であり、環境と調和した社会を作るための社会運動でもあると言われています。そして、現在、各国はアグロエコロジーを科学として発展させるために、努力を続けています。欧米はもちろん、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアにもアグロエコロジーは大学で研究され、多くの成果が出ています。科学的な実践と農業的な実践が相乗効果を生み出しています。
 しかし、日本ではアグロエコロジーを体系的に学べる大学が存在するでしょうか? 海外では先進国はもちろん、南の国にも存在しますが、日本にはいまだ存在していません(有機農業に関する学科が埼玉、島根にあるくらいと聞きます)。この格差はあまりに大きすぎると言わざるをえません。世界が必死に求めているものを日本はまったく追おうともしていないのですから。こんな姿勢で、どうやって次世代の有機農業技術が2030年以降に出現するのでしょうか?
 
 もっとも、農水省には世界のアグロエコロジーでも重要視される重要な研究を行っている研究者はいます。たとえば、カバークロップはアグロエコロジーで重要な役割を果たすものですが、農水省農研機構は日本の地域にあったカバークロップの研究をすでにしています。問題はその成果が生かされていない、肝心の農家に知られていないことです。その重要性を理解するためにはやはりアグロエコロジーという体系だった学問の確立が必要となるでしょうが、それが欠如しているから、その重要な知見も政策に反映できない状態が続いているのではないでしょうか?
 
 日本は有機農業のパイオニアの国の一つであり、日本の有機農家の実践は世界でも高く評価され、日本で生まれた産直提携は世界の手本となっています。農水省がしっかりとアグロエコロジー研究に本腰を入れれば、日本は国際的な知見を得て、地域に生かすことができるだけでなく、日本の優れた技術と経験を世界と共有して、日本の有機農業・アグロエコロジーがふさわしい尊敬を獲得することは今でも十分可能であり、そしてそのことによって、多くの若者が日本での農業の発展のために力を発揮してくれることは間違いないと思います。
 
 ここで肝心になるのはやはり政策です。農業がタネから始まること、そして世界が共通で追い求めているアグロエコロジーをしっかりと位置づけることを求めます。それなしに成功は考えることはできませんので、確実に実行することを求めます。


コメント締め切りは2022年5月31日

「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律施行令案」等についての意見・情報の募集について

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